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これからの充電はワイヤレスに? 無線充電を知ろう

掲載日:2023/02/14

これからの充電はワイヤレスに? 無線充電を知ろう

家電量販店の充電器コーナーに、ワイヤレス充電器の種類が増えてきている。スマートフォンなどの機器を、充電器の上に置くだけで充電できるという手軽さと、一度に複数台の充電が可能というところで人気を得ているようだ。ワイヤレス充電器がどういう仕組みなのか、また、ワイヤレス充電器のメリットはどこにあるのかを見ていこう。

無線で充電できる仕組み

ワイヤレス充電器はACアダプターから電気を取り、スマートフォンなどの機器を充電器の上に置くと充電できる。対象機器はスマートフォン、タブレット、モバイルオーディオ機器、デジタルカメラなど。充電器・機器ともに充電端子がむき出しになっているわけでもないのに、無線で充電できるのは画期的な技術だ。

ワイヤレスの給電方式は、主に4通りある。

電磁誘導方式

ワイヤレス充電で最も一般的なのがこの方式だ。「電磁誘導」はコイルを貫く磁束の変化によって生じる現象を言う。かみ砕いて説明すると、送電側のコイルに電流を流して「磁束」を発生させ、受電側のコイルに誘電して電気を送る現象だ。磁束というのは、磁束密度に面積を掛けたもので、Φ(ファイ)で表す。磁束というのは、磁束密度に面積を掛けたもので、Φ(ファイ)で表す、というのを高校の物理で習ったことを思い出すだろうか。

この方式は回路構成がシンプルで、小型・低コストで実現できることがメリットだ。伝送効率も約90%程度までと高い。ただし、伝送距離は数センチ程度と短く、充電器と充電する機器の位置がずれると充電できないなどのデメリットもある。

電磁誘導方式は以下の2団体で推奨されている。

■WPC(Wireless Power Consortium)

ワイヤレス給電の国際標準規格「Qi(チー)」の策定と普及を目的に設立された団体。Qiは当初5W以下のみだったが、15WまでのEPP(Extended Power Profile)が策定され、有線充電と同等のワイヤレス充電が実現した。

■AirFuel Alliance

PMA(Power Matters Alliance)とA4WP(Alliance for Wireless Power)が合併し、PMAのPMA規格、A4WPのRezence規格が統合。前者は電磁誘導方式、後者は磁界共鳴方式で、二つの規格が合わさってワイヤレス給電のための新たな規格「AirFuel RF」が2023年1月に発表された。この規格により、高周波を使用して数メートル先まで給電可能になった。電源の場所に関係なく、数メートル離れていたとしても複数の機器を同時に充電できるのだ。現在、AirFuel Allianceでは、AirFuel Inductive(旧PMA規格)とAirFuel Resonant(旧Rezence規格)の二つの規格を推進している。

磁界共鳴方式

電気自動車(EV)の充電用として開発が進められている方法。数メートルまでの距離の長い伝送が可能なことが特徴だ。二つのコイルを「共振器」として利用し、電磁誘導の原理を基に電力を伝送させる。

送電側のコイルに高周波の交流電流が流れると、磁場の振動がコイルの周囲に発生する。受信側のコイルがその磁場に近づくと、受電コイルに誘導電流が流れ、その周辺に磁場が発生する。送電側、受電側の二つのコイルの磁場は結合してエネルギーをやりとりするという仕組みだ。この方式のデメリットは伝送効率が約60%までと、ほかの方式より低いことにある。

電界結合方式

送電側と受電側にそれぞれ電極を設置し、両方の電極が近づいたときに発生する「電界」を利用し、電気を伝送する方式。送電側のモジュールで電力を交流に変換し、送電電極と受電電極で構成したキャパシタ(蓄電器)を通して受電側に伝送する。

受電モジュールは整流回路と電圧変換回路で構成され、スマートフォンなどの機器に安定した直流電力を供給する。伝送効率が約90%までと高く、また、大電力化が可能で、一つの充電器で複数の機器を充電できる。

電波受信方式

FeliCaなどRFID(パッシブRFIDタグ)などに用いられている方式。送電側で電流を電磁波に変換し、受電側に送る。受電側はアンテナを通して電磁波を受電し、整流回路で直流電流に変換して電力として利用する。伝送距離は数メートルまでと長いが、伝送効率は悪い。

ワイヤレス充電器のメリットとデメリット

メリットは、スマートフォンなどの機器を置くだけで充電できる手軽さ、ケーブルが不要なためLightning対応でもUSB Type-C対応でも使えることにある。また、複数台を一度に充電できる充電器や、無線・有線の両方に対応している充電器なども販売されているため、利用範囲が広がる。

その半面、デメリットとして、有線での充電器に比べると充電に時間がかかることがまず挙げられる。供給電力がもっと大きくなればこの問題は解消される可能性はあるが、現時点では充電速度では有線に軍配が上がる。

電磁誘電方式の充電器だと位置がずれていると充電できないということも生じる。うっかり充電中のスマートフォンやタブレットを触ってしまったために、充電が中断されるということもあり得る。

また、価格面でも現在は有線充電器よりも高いため、ワイヤレス充電器にメリットがあると感じないお客様は従来の充電器を選ぶだろう。

ワイヤレス充電器の可能性

家庭やオフィスで使うワイヤレス充電器は、性能の向上とともにさまざまな機器で使われるようになりそうだ。

さらに広い範囲で伝送を行う「空間伝送型ワイヤレス電力伝送システム」も開発されている。店舗やオフィスでのカメラ、モバイル機器などへの送信にとどまらず、工場や倉庫配送センターなどの無人エリアで、センサー・カメラなどへの送信も想定されている。さらに、老人看護施設などでの普及も可能性がある。

総務省の『「空間伝送型ワイヤレス電力伝送システムの技術的条件」のうち「構内における空間伝送型ワイヤレス電力伝送システムの技術的条件」』(令和2年7月)によると、2025年の国内市場規模予測は、FA/IoTセンサー、介護・見守り用途センサー、モバイル端末への展開での合計は約5,520億円が見込まれるとされている。

今後、拡大していく市場であることは間違いなさそうだ。新しい情報にアンテナを張り、適切なタイミングでお客様に提案していきたい。