業務改善

人事関連業務をサポートする「HRTech」とは

掲載日:2023/03/07

人事関連業務をサポートする「HRTech」とは

日本の企業でなかなか改善されない問題の一つに、人事関連業務のアナログさがある。社員のキャリアに関する要望や人材登用・配置の基準などの情報は、しばしば人事部のトップや経営陣にのみ共有されており、果たして適切な登用が行われているのか外部から検知することはできない。そのような中で部下たちは煩雑な業務に追われる……という状況が人事の当たり前になっている。このような状況をITの力で改善する「HRTech」の魅力を紹介したい。

HRTechの概要とそのメリット

HRTechとは、Human Resources(人事)の頭文字とTechnology(技術)の略語を組み合わせた造語であり、適切なソリューションを活用して人事関連業務をこれまで以上に効率化することを指す言葉だ。

一般的に、これまで人事関連業務はDXへの移行が難しいと考えられていた。これは、人材の評価が多数の情報を複雑な定義付けで評価せざるを得ないためである。営業成績の順位付けや経理処理のようにある種単一な目標における貢献度を数値で測る場合に比べ、非常に評価基準の置き方が難しい。そのため、人事担当者による属人的な判断で業務を進めるということもしばしば見受けられた。

しかし、近年のIT技術の進化と浸透は目覚ましく、ビッグデータの分析やAIの活用により、ビジネスをさらに円滑に進めることが常識になりつつある。もちろん人事関連業務においても例外ではなく、これまで困難だった分析業務も可能となった。では、HRTechを活用した場合、具体的にどのようなメリットがあるのだろうか。

人事担当者および社員全体の手間を削減

まず注目すべきは、手間の削減である。勤怠管理や給与計算、証明書の発行などの業務をHRTechで自動化することにより、担当者の負担を大幅に削減できる。

手間の削減に向けておすすめしたいのは、経費精算や人事管理といった分野にも対応する総合機能型の勤怠管理システムの導入だ。これは、仮にそれぞれの分野に対応するシステムを個別に導入した場合、最終的に人の手によって統括的に内容を確認する必要があり、負担を削減するという目的に対して不都合なためだ。

また、このようなシステムを導入することは、人事担当者のみならず、社員全体の業務負荷削減も期待できる。実際、これまでしばしば見受けられた「勤怠状況や各種申請書を紙に印刷して担当部署に直接提出する」といったやりとりは煩雑極まりない。HRTechであれば、このような手続きはスマートフォンやPCからどこでも即座に終わらせることができる。

人間の判断に頼りすぎない採用活動や人事評価が可能に

また、HRTechの活用により、これまで目が行き届かなかった優秀な人材の発掘も可能になると考えられている。そもそも、人事担当者が自分の感覚や記憶力、手元の紙資料だけを頼りに人材の良しあしを判断するといったこれまでの状況は現実的ではなかった。このような状況を改善し、より最適な人材活用を可能にするHRTechがタレントマネジメントシステムである。

タレントマネジメントシステムとは、従業員(あるいは、これから従業員となる者)を機械的に分析し評価するためのソリューションだ。分析した対象者の能力やスキル、事業貢献内容は人事チームで共有できる。また、そのソリューションの種類によっては、社内における過去の人材登用記録のデータを分析し、そのフィードバックを今後の人事で参考にしていくといった機能を使うことも可能だ。

コロナ禍以降にテレワークが一般化したこともあり、社内で物理的に社員と接触しその働きぶりを観察することは難しくなってきている。このような状況だからこそ、包括的に蓄積した情報を一元管理でき、判断の手助けとなってくれるタレントマネジメントシステムの効果は大きい。

HRTechの導入事例

実際、既にHRTechを活用している企業からはその効果を評価する声が多数報告されている。例えば、とある大手デジタルマーケティング企業では、テレワークでの労働状況を確認するために勤怠管理システムを導入した。同社ではシステムの導入により、テレワークというチェックが難しい環境下でも、社員が使うPCのログやアプリの利用状況を人事担当者が把握できる体制を整えたという。これにより、単に人事評価のデータを容易に収集できるだけではなく、長時間勤務が続く社員を把握し健康維持のために労働状況改善へ働きかけるきっかけにするなど想定外のメリットも享受できている。

また、とある教育系企業では、人事評価制度の見直しに伴ってタレントマネジメントシステムの導入を決定したという。同社ではこれまで正社員約800人分の人事評価をExcelで処理していたが、これは担当者の大きな作業負担となっていた。タレントマネジメントシステム導入後は負担を大きく減らしただけではなく、評価対象を契約社員も含める1,200人まで拡大することに成功している。結果的に、これまで評価対象外だった社員も含めた柔軟な人材登用が可能になり、将来を見据えた組織構築の可能性が広がったことが報告されている。

導入事例を見るに、HRTechは手間の削減以外の効果も発揮することが分かる。人事という企業の根幹を支える分野において、想定外のメリットを受けられることは、企業にとって大きな変革のきっかけとなりそうだ。現状の企業形態に行き詰まりやさらなる変化を求める経営者にとっては、実に効率的なネクストステップの武器として活用できることだろう。