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2023年4月解禁!「給与のデジタル払い」を解説

掲載日:2023/03/14

2023年4月解禁!「給与のデジタル払い」を解説

2022年11月に労働基準法が改正されたことにより、2023年4月から給与のデジタル払いが解禁される。給与のデジタル払いとは、企業や団体が銀行口座を介することなく、決済アプリや電子マネーなどのキャッシュレス決済サービスを利用して労働者の給与を振り込むことだ。この解禁が、これから労働者と企業にどのような影響を及ぼすのか解説する。

給与のデジタル払いとは

これまで労働者の給与は原則的に通貨によって支払うことが定められていた。従って実際に給与を受け取る際には、現金の手渡しもしくは銀行口座あるいは証券総合口座に振り込みといった方法を経る必要がある。しかし、今日においてはキャッシュレス決済や送金サービスなどを利用する人が増加し、必ずしも全ての給与を通貨で受け取ることが労働者にとって最適とは言えない状況になりつつある。

そこで、2022年11月に労働基準法が改正され、2023年4月からは労働者の同意を得た場合のみ、給与を決済アプリや電子マネーなどのキャッシュレス決済サービスに送金して支払うことが可能になった。これを給与のデジタル払いという。

あくまでも同意を得た場合のみ許可される制度であるため、労働者が拒否した場合は、これまでどおり通貨で給与が支払われる。

また、労働者が希望する場合は、給与のうち一定額のみをデジタル払いとして振り込み、残りを従来の方法で振り込むという形に分割もできる。

給与のデジタル払いに関するメリットとデメリット

給与のデジタル払いが可能になったことによるメリットとデメリットは、給与を受け取る労働者側と支払う企業側によって異なる。それぞれの立場ごとに紹介しよう。

労働者側のメリット

労働者にとって給与のデジタル払いによる最大のメリットは、別途チャージ(入金)することなく決済アプリや電子マネーを使用できるという点である。これらのサービスを利用するには銀行口座やクレジットカードでチャージする必要がある。デジタル払いにするとその手間が省け、場合によっては銀行口座からの引き出し手数料もなくなるため、日々の節約にもつながる。さらに、一般的にこれらのサービスにはポイント還元やキャッシュバックなどの特典が付帯するため、現金でそのまま消費するよりも金銭的な恩恵が受けられることもメリットだ。

また、外国人労働者や新社会人、日雇い労働者などの各労働者の立場によっては、銀行の口座を開設する方法が分からなかったり難度が高かったりするため、銀行口座を持っていない場合もあるだろう。その際、デジタル払いであれば、銀行口座の有無に関係なく、普段使い慣れているアプリやシステム内に給与が入金されるため、より幅広い条件の労働者に対応できるようになる可能性も高い。

労働者側のデメリット

給与のデジタル払いのデメリットは、入金された給与の用途が限定されるという点だ。一般的に、決済アプリや電子マネーは提携する店舗やサービスでしか支払いに利用できない。現金であれば国内のどのような支払いにも利用できるのに対して、用途が限定されることは端的に不便である。

また、デジタル口座残高の上限額が100万円とされているため高額な給与の振り込みには適さないことや、現金化する際には手数料がかかってしまうなどのデメリットも考えられる。

企業側のメリット

企業にとって給与のデジタル払いによる最大のメリットは、給与を振り込む際の手数料を削減できるという点だ。一般的に、社員の利用する銀行と企業取引先の銀行が異なる場合、給与振込時に手数料が発生する。しかし、決済アプリや電子マネーへの振込であれば、おおむね手数料が発生しない。社員が多いほど手数料の負担が増えるため、大企業ほど給与のデジタル払いによる恩恵が大きくなると言える。

また、例えば自社が運営する電子マネーでデジタル払いが可能ならば、従業員が普段の生活でそれを利用した際に収益が発生する。そのほかにも、取引企業の決済アプリや電子マネーをデジタル払いにあてがうことで、当該企業との関係を構築する際のアピール材料とすることも可能だ。

さらに、前述のとおり外国人労働者や新社会人などの一部の労働者が給与振込用口座を開設するという難点まで解消できるため、これまで以上に幅広い人材を採用しやすくなるという点もメリットである。

企業側のデメリット

前述したとおり、労働者が希望する場合は、給与のうち一定額のみをデジタル払いとして振り込むことが可能である。現実的には給与全額のデジタル払いを希望する労働者は少数派であることが予想されるので、大多数はデジタル払いと従来の支払い方法が両立することになるだろう。

このような場合、企業は労働者の給与を従来の方法とデジタル払いという2種類に分けて管理する必要がある。単純に手間が増えるだけではなく、給与計算システムなどを改修する必要があり、コスト的な負担も大きいというデメリットが生じる。

今後の動向

今のところ、給与のデジタル払いによる影響は、労働者側にとっても企業側にとってもメリットよりもデメリットの方が大きいように感じられるのではないだろうか。少なくとも、解禁後すぐに、多くの企業で給与のデジタル払いが浸透するような事態にはならないと考えられる。

今後デジタル払いの浸透が進む可能性があるとしたら、例えばキャッシュレス決済サービス側が「デジタル払いによる電子マネー利用時はポイント還元率アップ」のようなキャンペーンを大々的に打つなどの施策がきっかけになるだろう。ベンダーとしてはそのような情報をいち早くキャッチし、決済端末や給与計算システムなどの需要増に備えることがビジネスにおけるポイントとなりそうだ。