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通信が変わる NTN(非地上系ネットワーク)とは

掲載日:2023/04/18

通信が変わる NTN(非地上系ネットワーク)とは

いまや生活やビジネスでスマートフォンを使わないことは考えられない時代になったが、いまだに山間部や離島などでは電波が圏外になることもある。しかし、そのような僻地でも問題なく通信が可能な新しい無線通信システムの誕生に注目が集まっている。成層圏や宇宙から地球のあらゆる位置に電波を飛ばす「NTN」とはどのようなシステムなのだろうか。

無線通信システム構築の現状

これまで無線通信システムを構築する際は、地上に無数の基地局を設置する方法が一般的であった。しかし、電波の届く範囲には限りがあるため、地上に途切れなく通信網を構築するためには、狭い範囲に多数の基地局を設置する必要があった。このような基地局は、電波塔型のものやビルの屋上に設置する形式のものが一般的である。これは、電波は高い位置から発するほど広い範囲に拡散するという特性があるからだ。そのため、従来の方法で無線通信システムを構築することはコストの面で負担が大きく、また既に基地局を設置している同業他社とスペースを取り合うという事態を引き起こしかねなかった。

この基地局を巡る問題は、現行の最新無線通信システムである5Gの普及においても大きな足かせとなっている。5Gは従来の4Gよりも高い周波数帯の電波を利用するため、到達距離が短く通信網の構築に必要な基地局の数が多い。また、5Gの次世代規格である6Gではより高周波数帯の電波を用いるとされているため、地上に基地局を増やし続けていてはこの問題がさらに悪化することも予測されている。6G登場は2030年前後と予測されているが、基地局の問題が解消されないままでは普及もままならない。

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基地局の代替として期待がかかるNTN

そこで、これからの無線通信システムの構築方法として注目を集めているのがNTNである。この言葉は「Non-Terrestrial Network(非地上系ネットワーク)」の略であり、遥か上空に飛ばした人工衛星や飛行機を基地局の代替とするという考え方だ。NTNは地上の基地局に比べ、非常に高い位置から電波を飛ばすことが可能なため、広い範囲の通信をカバーでき、コストやスペースといった問題を解決できると期待されている。

NTNの実現においては、主に地表からの高度の違いによって異なる3種類の設備が基地局の役割を担うことが期待されている。具体的な内容については以下のとおりだ。

GEO(Geostationary Orbital satellite:静止軌道衛星)

GEOとは、高度約36,000kmの軌道を移動する人工衛星である。この衛星は地球の自転とほぼ同じ速度で移動するため静止衛星と呼ばれており、地上の定点観測や放送などに使われている。極めて高い高度に位置するため広範囲に届く電波を発信でき、GEOが3基あれば地球上全ての領域で通信網を構築可能だ。しかし、地上から衛星までの距離が遠いため、データの伝達遅延が大きいという欠点がある。

LEO(Low Earth Orbit satellite:低軌道衛星)

LEOとは、高度約2,000kmまでの軌道を移動する人工衛星である。この衛星は上空を常に移動する軌道に位置するため、GEOに比べ電波が届く範囲が狭く、タイミングによってカバーできる地域が異なる。そのため、LEOによって地球全体をカバーする場合は、多数の衛星を打ち上げてそれぞれの電波が届く範囲を分担できるよう常時連動させながら管理するという手間がかかる。反面、GEOに比べデータの伝達遅延が小さいという点はメリットだ。

HAPS(High Altitude Platform Station:高高度プラットフォーム)

HAPSとは、高度約20kmの成層圏を飛行するドローンだ。太陽光パネルの発電をエネルギーに長時間飛行し、直径約200km圏内の通信をカバーする。現在は実用の実験段階だが、中には36日間以上の連続飛行を記録した機体もあるという。

HAPSは飛行することで自由に位置を変えられるという特性を生かし、地上の基地局が機能しなくなった地域に向けて臨機応変にサポートへ向かうということもできる。被災地や戦場といった地域に出前する形で基地局の役割を果たしに行くことも可能だ。

NTNの最新活用状況

いまだに未来の通信技術といったイメージの強いNTNだが、既に民間レベルでも利用可能なサービスが提供され始めている。例えば、昨今ウクライナ政府へ無償提供されたことで有名になったStarlinkは、スペースXが提供するNTNサービスだ。2022年からは日本国内でもサービスが開始され、法人・個人を問わず契約が可能になっている。

また、北米のみではあるものの2022年からAppleの「iPhone 14シリーズ」はNTNを利用した緊急通報サービスが利用可能になった。こちらも近い将来に日本国内でも利用できるようになることが期待されている。

そのほかにも、現在はワンウェブやAmazonといった企業がNTNインフラの構築に着手していることが発表されている。これらのサービスが一般化されれば、近い将来、NTNは6G実現の基盤として身近な存在になることだろう。2030年前後の6G普及を見据え、NTNにも注意の目を向けておくことがビジネスの鍵になりそうだ。