ネットワーク

最新の監視体制 オブザーバビリティとは?

掲載日:2023/05/16

最新の監視体制 オブザーバビリティとは?

最近、オブザーバビリティという概念がにわかに注目を浴びている。聞き慣れない単語だが、その概念自体は「カルマンフィルター」などで知られるルドルフ・カルマンが1960年に提唱したものであるという。以前から存在していたこの言葉が最近取り沙汰される背景には、ビジネスで利用されるシステムの複雑化が進み、もはや人間の手に負えない状況が近づきつつあることが影響している。

モニタリングとオブザーバビリティの違い

ビジネスでITを活用するためには、機器やネットワークの正常な動作が不可欠である。システムが停止した状態や、期待するパフォーマンスを発揮できない状態にすぐ対処できる体制を構築しなければならない。常にシステムをモニタリングし、異常を検知する体制は、多くの企業でも実践されている。

このような常識がある中、最近「オブザーバビリティ」が注目され始めている。モニタリングが監視という行為を指す言葉であるのに対し、オブザーバビリティとは、システムの出力を外部から観測することにより内部の状態を測定する体制を指す。すなわちオブザーバビリティとは、モニタリングによって収集したデータを解析し、発生した問題の根本原因を特定する仕組みのことである。

オブザーバビリティの3要素

オブザーバビリティの実現において重要なのが、ログ、トレース、メトリクスという3要素だ。

ログとは、出力されたテキストデータを確認し、どのような問題が発生したのかを把握することだ。システムで起きたイベントやエラーのログを見ることで、具体的な動作の詳細を監視する。

トレースとは、処理の流れをたどり、どこで問題が起きているのかを把握することだ。AIによる解析やリクエストの処理フローの可視化により、問題の根本的な原因を特定することが求められる。

そしてメトリクスとは、システムの内部情報をリアルタイムで収集することを指す言葉だ。一定の時間におけるCPU使用率やメモリ使用率を計測することにより、システムに何が起きているのかを把握する。

オブザーバビリティを実践する際は、障害の発生時にログとトレースにより問題を特定することが求められる。それから、メトリクスによって、保有するITリソースが求める処理に対し十分な内容になっているかを確認する。

オブザーバビリティが求められる理由

今日のITを活用する場面において、オブザーバビリティは重要な意味を持つ。これは、オブザーバビリティによって複雑なITリソースから総合的にデータを測定し、分析に活用できるためだ。

生産性の向上などにおいて、データを利活用することが効果的であることは言うまでもない。このデータは業務で活用するITから抽出されるわけだが、実際のところ、多くの企業では業務システムが複雑な要素によって構成されている。クラウドやアプリ、データインフラストラクチャといったリソース全ての状況をモニタリングし、データを抽出するという行為は非常に煩雑であり、担当者の大きな負担になる。

また、モニタリングと分析の担当者が異なる場合は、正常に情報の共有ができなかったり、対応の解釈が分かれたりといったことが原因で、最適な解決に導けないケースもしばしば存在する。先に述べた「3要素」をオブザーバビリティに触れる以前から注視しているという企業もあるだろうが、それぞれを別々にチェックするようではシステムで発生している問題をリアルタイムに把握するのは難しい。

このようなちぐはぐさによって生じる問題が、社内IT環境のサイロ化である。部署や担当者ごとに分断された状況では、理想的なデータの利活用は非常に難しいことだろう。

一方、オブザーバビリティを実現した環境であれば、このような複雑なリソース状況であっても少ない負担で包括的にデータを確認できる。「3要素」も一括で収集できるため、問題把握までの時間も最小限に抑えることが可能だ。

オブザーバビリティが最も真価を発揮する場は、システムが複雑化しすぎて全体のデータを管理することが困難になった企業、あるいはその直前の段階にある企業であろう。モニタリングによって問題を発見することが遅れてしまう、発見したのは良いもののその詳細が掴めず対処に困る、といった状況に遭遇しているならば、特に適しているかもしれない。

リモートワークや自動化技術がトレンドになったこともあり、かつてビジネスにおいて人間が担っていた大部分がシステムによって代替されるようになってきた。担う分量が多くなるほどシステムは複雑化していき、やがて従来の方法では監視が行き届かなくなる時代が来るだろう。手遅れになる前にオブザーバビリティへ注目しておくことが重要だ。