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中小企業注目! 人的資本経営とは

掲載日:2023/05/30

中小企業注目! 人的資本経営とは

人的資本経営は、人材を「資本」としてとらえ、人材の価値を企業価値向上につなげるという経営方法だ。2022年8月に「人的資本可視化指針」が内閣官房により公表されたこともあり、「人的資本経営」が注目されている。グローバルに展開する企業だけでなく、中小企業も取り組むべきとされている理由はどこにあるのだろうか。

人的資本経営とは?

日本企業と投資家などにより、実践と開示の両面から人的資本経営を促進することを目的に「人的資本経営コンソーシアム」が設立されている。この「人的資本経営コンソーシアム」の定義では、『人的資本経営とは、人材を「資本」としてとらえ、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方』となっている。

従来、人材は「Human Resource(人的資源)」と言い表されてきた。しかし、「資源」は既にあるものを使う、というニュアンスになり、コストを抑えてうまく回すととらえられてしまう。一方、「人的資本(Human Capital)」は、人材の成長を通じて企業価値に結びつけるため、人件費もコストではなく「投資」となる。

人的資本経営という言葉は新しいものだが、この概念は古くから存在していた。世界を見れば、アダム・スミスが18世紀に著書『国富論』で、また日本では渋沢栄一が1916年に発表した『論語と算盤』で、時間をかけて教育した人材が資本となるという考えにつながるという論を述べている。

今、「人的資本経営」が注目される理由

日本の一般企業は、長い間新卒を一括採用し、終身雇用とする「メンバーシップ型」雇用システムを取ってきた。しかし、IoTやAI、ビッグデータを用いた技術革新による第四次産業革命が起こり、かつ働き方が多様化したことにより、ジョブ型雇用を採用する企業が増えつつある。こういった変化から、人材の育成や専門知識を持つ人材の獲得が必要になってきているのだ。

ESG投資が重視されるようになっていることも、人的資本経営が重視される要因の一つ。Environment(環境)・Social(社会)・Governance(企業統治)のうち、社会と企業統治は、人的資本に密接に関連する。2020年、米国証券取引委員会では、上場企業に人的資本の情報開示を義務化した。

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日本でも同様の動きがあり、2023年3月期決算以降、大手企業約4,000社に対して有価証券報告書への人的情報の記載が義務づけられた。

つまり、大手企業は人的資本経営への移行は必須と言える。中小企業は義務こそないが、多様な働き方が求められる現在、優秀な人材が大手企業に流れないようにするためにも、人的資本経営を考える必要があるだろう。

必要な視点と要素

2020年9月に経済産業省が発表した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート」には、「人材戦略に求められる3つの視点と5つの共通要素」が掲げられている。その要点を見ていこう。

3つの視点

視点1:経営戦略と人材戦略の連動
経営戦略同様、人材戦略も自社に適した戦略を行う。

視点2:As is - To beギャップの定量把握
経営戦略上重要になる人材アジェンダを特定し、アジェンダごとのKPIで目指すべき姿(To be)の設定と現在の姿(As is)のギャップを定量的に把握する。

視点3:企業文化への定着
日々の活動・取り組みを通じて構成された企業文化を定義し、定着に向けて取り組む。

5つの要素

要素1:動的な人材ポートフォリオ
将来的な経営目標に必要となる人材の要件を定義し、それを満たす人材を獲得・育成する。

要素2:知・経験のダイバーシティ&インクルージョン
経験、感性、価値観、専門性といった知と経験のダイバーシティを取り込んで具現化する。

要素3:リスキル・学び直し
企業として、個人の専門性の向上のために、個人の自律的なキャリア構築を支援する。

要素4:従業員エンゲージメント
企業と個人が対等な関係となり、従業員がやりがい・働きがいを感じて主体的に業務に取り組める環境を創る。

要素5:時間や場所にとらわれない働き方
いつでも、どこでも、安全かつ安心して働ける環境を平時から整える。

コロナ禍から学ぶ企業の対応

突然襲われた新型コロナパンデミックで、リモートワーク対策を急ピッチで進めることになった企業も多かった。

しかし、政府がコロナ対策を緩めるようになり、オフィスワークに戻す企業もまた増えてきている。オフィスで顔を合わせて行う方が効率的な業務もあるためだ。ただし言うまでもなく、リモートワークには、介護や育児などの理由で通勤が難しかった優秀な人材が働きやすくなるなどのメリットがある。

人的資本経営の視点で考えると、全てをオフィスワークに戻すより、テレワークも可能なハイブリッドワークが適切なのではないだろうか。