IoT・AI

AIをうまく使いこなせれば、会社の発展、
人類の幸福にもつながると期待しています。
〜工学博士/東京大学大学院情報理工学系研究科 教授
松原 仁 氏〜

掲載日:2023/06/20

AIをうまく使いこなせれば、会社の発展、人類の幸福にもつながると期待しています。
        〜工学博士/東京大学大学院情報理工学系研究科 教授 松原 仁 氏〜

世界中で話題となっているChatGPT。欧米諸国では、もろ手を挙げて受け入れるというよりは、使用を禁止する動きが報道されている。日本でもその対応について議論が始まっており、これからの成り行きに注目が集まっている。将棋・囲碁のAIをはじめとする、人工知能の進化を見守ってきたのは工学博士の松原 仁教授。東京大学大学院情報理工学系研究科の松原教授にAIとの付き合い方や、AIが進化することでもたらされる影響についてお伺いした。

AIのある社会が現実となった理由は?

BP:最近、身近にAIのある社会が、当たり前のように受け入れられていると感じるのですが、その要因についてどのようにお考えでしょうか?

松原 仁教授(以下、松原教授)ディープラーニングによるAIは、2010年代の前半から第3次ブームと言われています。出始めた頃は、専門家や一部の人にしか定着しませんでした。それからシステムの質が向上し、次第に製品の値段が下がったことで普及が進み、2020年前後にかけて広く認知されたのだと思います。

例えば、AIスピーカーは、何十年も研究されていましたが、精度が悪く商品として成り立ちませんでした。ディープラーニングの技術によって、精度が向上したことで、多数の商品が登場したのはご存じの通りです。ただ、当初は値段が高いし、使い方になじめない時期が続きました。製品の開発者は、好きな音楽を登録するなどの使い方を想定していたようですが、料理を作る際に「5分経ったら教えて」というような使い方が便利だと知られると、たちまち利用が広がっていきます。このように、技術的革新があって、開発者が意図していなかった使い方が切り開かれて広まっていく。それが、ここ数年、色々な分野でAIが浸透してきた理由だと思います。

BP:AIの技術を使ったサービスが数多く登場しています。これは精度の向上が普及のきっかけでしょうか?

松原教授:やはり大きいですね。ディープラーニングとは、ニューラルネットワークと呼ばれる人間の脳の神経細胞網を模したネットワークをコンピューター内に作るという仕組みですが、そのような研究自体は70年前くらい前からあります。昔のコンピューターではそんな複雑なネットワークをシミュレーションできません。いわば量が質に転化したのだと思います。

それと、実はグラフィックボードに搭載されているGPUは、ディープラーニングに向いていることが偶然分かりました。GPUの製造会社はゲーム市場ではなくて、ディープラーニングで大成長しています。話題のChatGPTなどのディープラーニングでは、膨大なデータを学習するため、高い処理能力が必要になります。従来のコンピューターでは、果てしなく時間がかかりますが、高性能のGPUを使えば短時間で学習できることが分かりました。ここまで普及しているのは、ディープラーニングというAIの技術の登場もありますが、CPUの進化のほかにGPUという高速で演算処理できるチップを転用できたことが背景としては大きいですね。GPUの製造メーカーは、今までゲーム業界だけの限られた市場でしたが、いきなり注目されているAIのメインの技術になったので、作るだけ売れる状態となり大成長しています。これは結構偶然なんですよね。

BP:大変初歩的な質問で恐縮なのですが、以前からあるチャットボット(Chatbot)と今話題になっているChatGPTは仕組み的には全く違うのですか?

松原教授:チャットボットは、基本的な応答が数多く設定されていて、「こういう質問が来たらこう答える」という仕組みです。例えば、コールセンターの業務では、「こういう質問が来たらこう答えましょう」というマニュアルがありますよね。基本的にはそういうアイデアがベースになっています。そのため定型の質問に対して定型の答えを返すことしかできません。

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