組織改革

IT人材流出をどう防ぐ?

掲載日:2023/06/27

IT人材流出をどう防ぐ?

今後、世界的にIT人材不足は進み、IT業界の売り手市場は当分続くと言われている。条件の良い転職先が容易に見つかる状況にあれば、会社に不満がある社員は離職していく。優秀なIT人材を逃さないためにはどのような点に注意が必要なのだろうか。

IT業界を取り巻く状況

2019年にみずほ情報総研株式会社が発表した「IT 人材需給に関する調査」によると、IT人材需要が拡大していく反面で、IT人材の需給ギャップも存在している。同調査では、2018年時点でのIT人材の需給ギャップは約22万人だとされている。試算によると、2030年時点でもこのギャップは存在しているようだ。

特に、AIやIoT、ビッグデータに関する業種では需要が増え続け、それに伴いセキュリティ人材も同様に、人材不足に悩まされることだろう。

重要なIT教育の機会

IT業界全体で人材が不足している現在、人材の育成やスキルアップは見逃せない課題だ。

IPA(情報処理推進機構)が2023年4月にリリースした「デジタル時代のスキル変革等に関する調査(2022年度)」を見ると、「IT人材の適材化・適所化を阻む問題の整理」として、時間を確保できないことが学びの最適の障壁であるとなっている。

また、DX成果が上がらない企業の原因として、デジタルリテラシーの向上の取り組みが十分ではないことと、ラーニングカルチャーの醸成が十分ではないことが挙げられている。

新卒の従業員に十分な学びの機会を設ける必要があるのは言うまでもないが、IT人材の高齢化が避けられない現状から、同時に40~50代の従業員に対しても、さらなるスキルアップの場をつくるべきだろう。

2022年に政府はリスキリング(学び直し)支援に5年で1兆円を投じると表明した。対象はIT業界に限ったものではないが、IT人材育成にもリスキリングが重要なことは間違いない。

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企業が離職者を出さないために

IT業界はどの職場でも多忙で、残業が多い、休みが取れない、上司や周りのフォローが少ない、といった声がよく聞かれる。ワークライフバランスが崩れた会社を離れたいと思うのは、どの業界のどの企業で働いていても同じことだ。

まずは、コロナ禍で整えたテレワーク・ハイブリッドワーク環境をうまく生かし、従業員の負担が少ない働き方を確立することが重要だ。ただし、テレワークではコミュニケーション不足になりがちであるため、オンライン・オフラインの両方で上長含め社員同士の会話が活発に行える環境づくりをする必要がある。

機密情報以外は可能な限り社内でオープンにナレッジ共有すると良いだろう。オープンなコミュニケーションの場があると、新入社員も過去の事例がつかみやすく、また、新しいアイデアも生まれやすい。さらに、風通しの良いコミュニケーションは、「心理的安全性」にもつながる。

前述したとおり、学びの場、学びの時間を設けることも大切だ。中堅社員以上であっても、新しい技術を身に付けることでモチベーションが上がり、業務の幅が広がる。 また、管理職に就く際には管理職研修などの機会をつくることをお勧めする。例えば、評価基準もあらかじめ定めておくなどすると良いだろう。

営業職と異なり評価しにくいエンジニアなどの場合、一般的な評価軸である、行動評価、技術評価、成果評価を用いる。行動評価は、コンピテンシー評価とも言われ、優れた業績の社員の行動特性を基準とし、評価するものだ。技術評価は、資格試験の合否を参考にしたり、業務に必要な各スキルについて点数や5段階で評価したりするものである。成果評価はプロジェクトマネージャーなど、一定の階級にいる社員が対象となる。プロジェクトを動かすレベルにあれば、業務が売上にも結びついていくからだ。

こうして評価基準をしっかりと定めることで、社員の学習に対するモチベーション向上につながり、離職防止の一翼を担うだろう。

リスキリングを推進する企業

大手電機メーカーは、約1万6,000のオンライン講座と10言語の学習に対応した、AIを活用した教育システム「学習体験プラットフォーム(LXP)」を導入。

また、大手精密機器メーカーは、2018年にソフトウェア技術者向けの社内教育施設を設け、AI人材の育成やリスキリングを実施している。

さらに通信情報会社では、オンデマンド型教育を拡充。自社の学習のプラットフォームを設けており、従業員であれば誰でもDXやAIを学ぶことができる。

しかし中小企業では、自社独自のリスキリングプラットフォームを設けることは難しい。そこで、ヤフーの「Yahoo! テックアカデミー」、インターネットイニシアティブ(IIJ)の「IIJアカデミー」といったIT技術・知識を身に付けられるスクールや、NTTドコモグループの「gacco」など動画で学ぶコースを利用すると良い。

IT業界全体の人材不足が続けば、人材の確保や流出防止は難しくなる。自社だけの問題と捉えず、他社のIT人材も含めて、気持ち良く働ける環境づくりができるようになれば理想的だ。