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「生成AIパスポート」は生成AI業界の新たな指標になるのか?

掲載日:2023/07/18

「生成AIパスポート」は生成AI業界の新たな指標になるのか?

日々発展の模様が伝えられるAI技術だが、その中でも特に注目が集まっているのが「生成AI」だ。特に近年は、自然言語によるプロンプト(指示)の入力や高精度の画像生成に対応したサービスが登場したこともあり、ビジネスで活用しようという機運も高まっている。そのようなときに気がかりなのが、法的、技術的な指針となる資格の存在だ。「生成AIパスポート」はその指針になり得るのだろうか。

ビジネス活用が進む生成AI

生成AIとは、データを学習させたコンピューターを使用し、新しいデータをアウトプットする技術を指す言葉だ。画像生成AIの『Stable Diffusion』や、対話型AIの『ChatGPT』なども生成AIの一種であり、これらのサービスは既に企業での業務活用が始まっている。野村総合研究所が発表した調査によると、2023年5月時点で、約10%のビジネスパーソンが「生成AIをビジネス活用している(トライアル含む)」と回答しているという。

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生成AIの問題点とは

一方、生成AIのビジネス活用については、問題も数多く指摘されている。まず注目すべきは、権利保護の問題だ。生成AIが学習に用いる膨大なデータには個人情報が含まれていることもあるため、企業としては意図しない情報流出に備える必要がある。

また、生成AIの活用による著作権の侵害についても考慮しなくてはいけない。2023年に文化庁が発表した「AIと著作権の関係等について」という資料によると、既存の著作物を学習データに用いることは商用・非商用ともに問題ないものの、「必要と認められる限度を超える場合」や「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」は著作権の侵害になるという。また、AIの生成物に既存の著作物との類似性や依存性が認められた場合も、著作権の侵害となる。

さらに、現在AIの生成物の品質はまちまちであり、そのまま即事業で活用できるレベルにはないことも問題だ。また、AIの導入によって人間が処理すべき業務の数が減少した場合、これまで関係を持っていた外部(協力する企業やフリーランスなど)や社員の雇用をどう守るのかという点の議論は尽くされていない。

国内では法律やガイドラインなどが完全に整備された状態ではないこともあり、生成AIのビジネス活用はグレーゾーンの部分が多いのが現状だ。ことさら、一企業が社内の知見だけを頼りに活用の基準を定めることには危険性があるため、専門の経験や資格を有する外部の協力を求めることも重要だろう。

生成AIパスポートは問題解決の一助になるか

そんな中、2023年5月に一般社団法人「生成AI活用普及協会」が「生成AIパスポート」と呼ばれる資格試験の開発を発表したことが注目を集めている。生成AI活用普及協会とは、生成AI活用の社会実装を目的としたスキルの習得・可視化を推進する団体だ。生成AIの知識やスキルに関する認定試験の実施や人材育成を目的とした企業向け研修の開催など、官民を問わず技術活用の幅を広げる活動を続けている。

同団体の公式Webサイトには「生成AIパスポートは、 生成AI活用に関する基礎知識や簡易的な活用スキルの習得を可視化するための認定試験・資格です。AIを活用したコンテンツ生成の具体的な方法や事例に加え、企業のコンプライアンスに関わる個人情報保護、著作権侵害、商用利用可否といった注意点などを学ぶことができます。これにより、生成AI活用に関するリテラシーの底上げを目指します。」と記載されている。

すなわち、生成AIパスポートは、前述した生成AIのビジネス活用における問題解決の一助になると期待されている資格だ。生成AIパスポートを持つ人材が社内にいることで、今後のAI活用における判断の安全性が増し、これまでの例にとらわれない自由な創生を手に入れることができれば、将来的にビジネスを有利に進めることも可能になるだろう。

生成AIパスポートに限らず、今後の時代においてAI活用におけるノウハウの獲得やその社会的な裏付けとなる資格の存在はますます大きなものになるだろう。特に、AI導入による業務内容や組織運営の変化といった知見は、しばらくは実際に活用することでしか身に付けられそうにない。

企業としてはそのような人材を積極的に育成・登用するとともに、ベンダーの持つ広いコミュニティを生かし、採用の幅を広げていくといった工夫を進めていきたい。