マーケティング

有名SaaS企業を急成長させた「プロダクト・レッド・グロース(PLG)」とは?

掲載日:2023/07/18

有名SaaS企業を急成長させた「プロダクト・レッド・グロース(PLG)」とは?

ZoomやSlack、DropboxなどのSaaS型サービスは同じような成長戦略を採用し、成功を収めている。その戦略というのが、プロダクト・レッド・グロース(PLG)だ。従来のセールススタイルと何が違い、どのような特徴を持つのか。また、PLGを採用すべきなのはどのような企業なのか。本記事で探ってみよう。

プロダクトに営業やマーケティングの機能を持つ「PLG」

プロダクト・レッド・グロース(PLG)は、2016年に米国のベンチャーキャピタルであるOpenViewが命名したGTM(Go-to-Market)戦略の一つ。GTMとは、自社商材の顧客へのアプローチ方法を示した計画のことを言う。

PLGは、プロダクト(製品)自体がマーケティングからセールス、既存顧客との関係維持を担う新しい戦略だ。具体的には、無料で一定期間試用できる「フリートライアル」や、無料プランと有料プランがある「フリーミアム」で新規顧客を獲得し、有料プランへの移行を誘導して、アップグレードすることで長く利用してもらう、などの方法をとっている。

現在、商材の情報はインターネットで簡単に見つけられる。顧客自らが自社の課題解決に有用な製品を探し出し、興味のある商材はまず無料で利用してみる。スピード感をもって必要なソリューションにたどり着けるPLGは、顧客にとっても提供側にとっても大きなメリットがあるといえよう。

PLGはZoom、Slack、DropboxなどのSaaSで取り入れられており、それらの企業の成長につながっていることからも、その効果が分かるだろう。

従来の手法「SLG」との違い

従来の営業担当主体のマーケティング、セールスは、SLG(セールス・レッド・グロース)と呼ばれる。大企業向けに営業を行う場合や、顧客ニーズに対応したカスタマイズをする場合などには依然として従来型のSLGが向いていることもある。

しかし、SLGではまず営業担当が製品の資料を提供し、説明を行う。顧客側は競合製品と比較したり、見積りを検討したりしてから、初めて製品を触ることになる。そのため、顧客が製品を導入するまでに時間がかかり、その間にほかの製品と比較されてしまって結局導入に至らないというデメリットも考えられる。

PLGの2つの方法

PLGにおいて、顧客に無料で商材を試してもらうために主に用いられているのが、前述したフリートライアル、もしくはフリーミアムだ。フリートライアルは、期間を定めて顧客に無料で利用してもらう手法。フリーミアムはフリーとプレミアムを合わせた造語で、フリープラン(無料)とプレミアムプラン(有料)がある手法だ。ZoomやSlack、Chatwork、LINE WORKS、Dropbox、Boxなど多くのSaaSは、フリーミアムを採用している。

一方でフリートライアル期間を設けているSaaSでは、操作マニュアルを公開して使いやすさをアピールするなどの工夫が行われている。

どちらの戦略を用いるべきなのか

マーケティング用語にレッドオーシャン、ブルーオーシャンというものがある。レッドオーシャンは、既存の市場で争っている状態。激しい競争で海が血の色で染まっている様子を表している。つまり、競合他社が多い中で、より多くの顧客を獲得し、シェアを広げていかなければならない。この状態では、PLGモデルが優位だ。なぜなら、顧客は既に該当のカテゴリーの商材があることを知っており、そのうえで自ら探しにきてくれるからである。

逆にブルーオーシャンは、まだ開拓されていない市場に踏み込む状況を言う。この場合は顧客が情報を持っていないため、SLGが優位になる。自社の問題を解決するソリューションとして、該当商材があることを知らないからだ。さらに後続の類似商材が出てきたとしても、先行企業は競合に対して差別化を図れる可能性が高くなる。

ただし、商材によってはブルーオーシャンであってもPLGモデルの方が適している場合もある。例えば、商材の利用方法が単純で、営業説明がそれほど必要ではないケースなどがその場合に挙げられる。

PLGを成功に導くには

プロダクト主導型のビジネスでは、顧客の購入意欲を高めてもらう必要がある。そのためのポイントは、次の3点となる。

顧客の問題解決

例えばコロナ禍で急にテレワークに移行した企業は、コミュニケーションの問題を抱えていた。これを解決したのは、Web会議ツールやチャットツールなどである。このように、多くの顧客が抱えている問題をくんで商材を提供できていれば、顧客は必ずそこにたどり着くのだ。

費用対効果の実感

使用した感触が良く、費用に見合った効果があると感じれば購入に至る可能性は高くなる。逆に、UIが分かりにくいなどマイナス点があると、フリートライアル期間が終わった際に離脱してしまう可能性が高くなるだろう。

他者からの評価向上

例えば分析ツールを用いて早く正確なデータを提示できれば、顧客の評価は上がるだろう。結果が出せる商材だと感じてもらえれば、購入につながりやすくなる。

PLGは営業対応に割かれる時間が減るため、営業担当のリソースが足りないときにも有用だ。従来の営業スタイルのように顧客の元に訪問することもなくなり、経費削減も見込める。

パッケージ型よりもSaaS型のソフトウェアが主流になってきており、労働人口が進むことも問題視されている今、PLG戦略は増えていきそうだ。