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未来の日本社会「Society 5.0」とは

掲載日:2023/07/25

未来の日本社会「Society 5.0」とは

多くの企業が将来を見据えてDXを推進しているように、社会全体も未来へ向けて変わり始めている。今日の情報化社会を超え、ITの最適な利活用を前提として作り変えられる未来の日本社会「Society 5.0」の展望と期待について解説する。

Society 5.0に至るまでの社会

2016年、内閣府は第5期科学技術基本計画を発表し、その中で「Society 5.0」という言葉を提唱した。これは、テクノロジーの活用による経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会という概念である。

内閣府の発表によると、我々の社会は狩りや採集によって成り立つ「Society 1.0」に始まり、農作物を育てるようになった「Society 2.0」、産業革命を経て大量生産を可能にした「Society 3.0」と進歩してきた。そして現代は、コンピュータやインターネットの普及により成り立つ情報社会の「Society 4.0」にある。

Society 4.0 の到来により、日常的な情報共有が可能になり、生活は便利なものになった。しかし、インターネットなどで共有される膨大な量の情報を個人が適切に取捨選択するのは困難になっている。情報の正誤を見極めるには高いリテラシーが必要であり、SNSなどにフェイクニュースが飛び交うこともある。さらに自身と関連が薄い社会問題の情報は入手する機会が少なく、知識が偏ってしまうことだろう。

そこで求められるようになった概念がSociety 5.0である。Society 5.0は知識と情報の共有により、分野横断的な連携を行うことで問題を解決できる社会だ。AIが適切な情報の選別を補佐し、ドローンや自動運転車が人口減少地域の人手となって働く。そしてロボットやパワーアシストスーツの活用によって就労の幅を広げ、経済成長を下支えする……、といった社会の形成が望まれている。

Society 5.0を支える技術の活用

Society 5.0の実現においては、フィジカル(現実)空間とサイバー(仮想)空間を高度に融合させたシステムの構築が重要だとされている。具体的には、フィジカル空間の事象をIoT機器がデータとしてキャッチし、収集したデータをサイバー空間でAIが解析。その結果を製品やサービスの改良に反映させることでフィジカル空間を充実させる、といったサイクルの実現が目標だ。

このサイクルを理想とする背景には、Society 4.0 におけるサイクルの反省があるという。現状社会では、人がデータを収集し、その内容を分析して結果を反映させる。すなわち、テクノロジーが介在していても、サイクルにおける原動力の中心は人であった。これでは労働力の減少という問題が加速するうえ、発想の自由さという点でも限界がある。

Society 5.0ではサイクルにおける人間の介在を極力減らすことにより、新たな価値創生や産業改革を目指している。

Society 5.0におけるビジネスの形

Society 5.0が実現した場合、各業界のビジネスは変容することだろう。例えば農業の現場では、消費者のニーズに合わせた農産物の適時自動配送を目指す動きが始まっている。これはAIが市場情報を解析することで従来よりも正確に需要を把握し、その情報から収穫や植え付けのタイミングの判断、あるいは取り扱う農作物の品種決定に至るまでを最適化することで成り立つ試みだ。国外も含む気象リアルタイムデータによる生育予測や、動きをプログラムされたドローンによる大規模な農薬散布など、人力では実現困難なことをテクノロジーが肩代わりする。

需要を先読みしてロスを抑えるという意味では、エネルギーや交通の分野においても最適化された統制が期待されている。人々の活動状況を分析することで必要なエネルギー量を把握できれば、発電所の稼働時間や供給の割合を調整できるようになる。あるいは、急な災害などの情報を素早くキャッチすることで、公共交通機関の発着本数をフレキシブルに変更することも可能になるだろう。

また、医療やものづくりの現場では、IoTをフル活用した高度な自動化の実現が期待されている。例えば、患者の健康や製品原料在庫の状況などを常時センサーが監視し、その情報を備蓄し続けることで、ビッグデータを24時間収集し続けるような環境を構築できる。ビッグデータをあらかじめ把握していれば、医療機関は受け入れ可能人数をより正確に予測でき、工場では余剰材料の廃棄を防げるようになる。

ICTなどの新技術を活用しつつ、計画や管理運営の高度化により問題解決・価値創生を目指す持続可能な都市をスマートシティと呼ぶ。内閣府はスマートシティを「Society 5.0の先行的な実現の場」と定義しており、今後のショーケースとして取り組みを推進している。

Society 5.0は自治体単位での挑戦としても注目すべき概念だと言える。ベンダーとしては企業間取引の枠に収まらない新たなビジネス開拓の道として、貢献できるチャンスを探っていきたい。