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法人向けの次世代移動通信「プライベート5G」

掲載日:2023/07/25

法人向けの次世代移動通信「プライベート5G」

プライベート5Gは、通信キャリアが持っているパブリック5Gの基地局を活用して、企業や自治体の敷地内などに専用のネットワークを提供するサービスだ。パブリック5Gとローカル5Gとの違い、そしてそれぞれのメリット・デメリットを確認してみよう。

5Gサービスの種類

5Gには、パブリック5Gやローカル5G、5G SA、そしてプライベート5Gといったサービスがある。

パブリック5G

パブリック5Gとは、一般的に5Gと呼ばれている「第5世代移動通信システム」のことだ。NTTやKDDI、ソフトバンクなどの通信事業者が全国にサービスを展開している。

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ローカル5G

企業や自治体が、建物や敷地内に専用の5Gネットワークを構築することを言う。スマートファクトリーや大型商業施設など、安定した高速通信が求められている場所で利用される。従来、工場など限定されたエリア内での通信にはWi-Fiが利用されてきたが、ローカル5Gの方が広い面積で利用できるうえ、通信も安定しており、セキュリティ面でも優位にある。

運用にあたっては無線局の免許が必要で、独自回線を使うため、パブリック5Gで大規模な通信トラブルが発生してもその影響を受けないことが大きなメリット。また、5Gの基地局がまだ出ていないエリアで利用できるのもポイントだ。

5G SA(スタンドアロン)

ローカル5Gの構成の一つで、コア設備や基地局などネットワーク全体を5G専用の技術と設備で構成した5Gサービスだ。さまざまな用途で大容量通信や低遅延通信が可能になり、特に上りの通信速度を大幅に高速化することができる。これに対するNSA(ノンスタンドアロン)は4Gのコア設備に5Gの無線アクセスネットワークを接続することで4Gと5Gの両方の電波を利用する5Gネットワーク構成になっている。

プライベート5G

ローカル5Gとは異なり、免許も自前の基地局の設置も不要。通信キャリアが既に提供している5Gの周波数を用いて、企業・自治体などの敷地内に必要な容量・帯域の5Gネットワークを提供する。ただローカル5Gの方が、費用面などの理由から中小企業や小規模の団体でも導入しやすいと考えられる。

プライベート5Gのメリット

総務省の「デジタル田園都市国家インフラ整備計画」(2022年3月公表)では、全国の5G人口カバー率を2023年度末に95%、2025年度末に97%、2030年度末に99%へ到達させる見通しである。移動通信は5Gが中心になりつつあるのだ。

5Gは4Gと比較して高速大容量の通信が可能になったこと、遅延が少ないことなどが大きなメリットだ。これはパブリックでもプライベートでも変わらない。ただし、パブリック5Gは混雑時に通信速度が落ちるなどの外的な影響を受けやすいことがデメリットである。組織内の5G通信を安定させるにはローカル5Gを導入するのが理想だが、費用面や運用面でのハードルが高い。

プライベート5Gは、ローカル5Gとパブリック5Gの中間にあたるサービスだと言える。免許の取得や設備費用、移動通信システムの専門知識を持つスタッフによる運用が不要であることなどが、ローカル5Gと比較したときのメリットだ。また周囲のネットワーク環境の影響を受けにくいという面は、パブリック5Gに対して優位性がある。

各社のプライベート5G対応状況

ソフトバンクは、2023年3月29日に法人向けの「プライベート5G(共有型)」の提供開始を発表した。

ソフトバンク社のプライベート5Gでは、ネットワークスライシングを利用し、企業・自治体などの用途に合ったネットワークのリソースを提供し、併せて閉域接続サービスと連携させる。ネットワークスライシングとは、ネットワークを仮想化してリソースを分割し、高速大容量、低遅延といった目的に合ったサービスを提供する技術のことだ。

ユースケースとして、建設業での建設機械の遠隔操作や建設現場の危険検知、設計業務支援、製造業の工場稼働見える化、モビリティの遠隔運転、外観検査の自動化、AR/VR遠隔支援、医療でのAR/VR遠隔支援、遠隔手術支援、精密作業の遠隔化などを想定している。

またAWSは2023年2月22日に新プログラム「Integrated Private Wireless on AWSプログラム」を発表。企業がプライベートネットワークを構築・運用するためのもので、世界の通信キャリア各社の5G/4Gと組み合わせてプライベートワイヤレスサービスを迅速に検討、導入する方法を提供する。日本では、KDDIがこのプログラムを通して「KDDI Private 5G」を提供開始すると発表されている。

プライベート5Gは動き出したばかりのサービスで、実例が出るのはまだ先になるだろう。そのためセールスが難しい面もあるが、通信が安定しないことで問題を抱えている企業があり、ローカル5Gの敷設が難しいということであれば、選択肢の一つとして提示すると良いのではないだろうか。