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テクノロジーとの共存へ 「カーム・テクノロジー」解説!

掲載日:2023/08/22

テクノロジーとの共存へ 「カーム・テクノロジー」解説!

カーム・テクノロジー(Calm Technology)とは、ユーザーがデジタルデバイスの存在を意識せずに使用でき、そのうえで効果的な機能を実現する技術をいう。穏やかな技術とも訳されるカーム・テクノロジーとはどのようなものなのか。

現代人とテクノロジー

現在、デジタルデバイスがない家はほとんどない。PCやタブレット、スマホはもちろん、スマート家電なども通信機能を持つものが増えている。

総務省の令和4年のデータでは、インターネット利用者の割合は84.9%と過去最高の数値である。70歳以上の高齢者の割合が低いためこの数値になっているが、6~69歳の利用者の割合は80%以上であり、特に13~59歳は100%に迫る数値となっている。

カーム・テクノロジーとは

「カーム・テクノロジー」の概念は、1995年にユビキタスコンピューティングの父と呼ばれるマーク・ワイザー氏がジョン・シーリー・ブラウン氏との共著で発表した論文「Designing Calm Technology(カーム・テクノロジーのデザイン)」で初めて提唱された。

ユビキタスコンピューティングは、社会や生活のあらゆるところにコンピューターが存在し、いつでもどこでも使用できる状態を意味する。 しかし、ユビキタスコンピューティングという概念をワイザー氏が提唱した1988年にPCを所有している人はわずかしかいなかった。

1995年のWindows 95の登場により、爆発的にPC所有率が増加するが、それでもまだ「いつでもどこでも」コンピューターが存在する状態とはいえなかった。そのため、カーム・テクノロジーが注目されるようになったのは、ここ数年のことだ。

デジタルデバイスが身の回りに増えると、至るところでアラームや通知音が鳴り、集中を途切れさせてしまう。また、PCやTV、外に出ればデジタルサイネージと、色鮮やかなディスプレイに触れている時間が増え、疲れを感じる人も出てくる。

こうした状況を改善するために、デジタルデバイスを意識させない「Calm(穏やかな)」テクノロジーが必要となり、カーム・テクノロジーが脚光を浴びているというわけだ。

カーム・テクノロジーの基本原則

カーム・テクノロジーは絶対に守るべきルールだというわけではないが、デジタルデバイスを作るときには、8つの基本原則からその製品にふさわしいものを取り入れる。

Ⅰ テクノロジーが人間の注意を引く度合いは最小限でなくてはならない
Ⅱ テクノロジーは情報を伝達することで、安心感、安堵感、落ち着きを生まなくてはならない
Ⅲ テクノロジーは周辺部を活用するものでなければならない
Ⅳ テクノロジーは、技術と人間らしさの一番いいところを増幅するものでなければならない
Ⅴ テクノロジーはユーザーとコミュニケーションが取れなければならないが、おしゃべりである必要はない
Ⅵ テクノロジーはアクシデントが起こった際にも機能を失ってはならない
Ⅶ テクノロジーの最適な用量は、問題を解決するのに必要な最小限の量である
Ⅷ テクノロジーは社会規範を尊重したものでなければならない
(アンバー・ケース著、大木和典・佐藤宗彦監修『カーム・テクノロジー』ビー・エヌ・エヌ新社 より引用)

テクノロジーとのより良い共存

スマホには、一定時間通知を送らない集中モードや、スマホの使用時間をチェックするスクリーンタイムなどが搭載されている。これも一種のカーム・テクノロジーといえるだろう。

PC版のChatworkやLINE WORKS、Slackなどのチャットツールでは、メッセージを受信してもポップアップメッセージを出さずに、アイコンに数字や丸印が表示される、あるいはアイコンが点滅する程度にとどめてある。メッセージを受信するたびにポップアップが表示されると業務の妨げになりかねないからだ。

洗濯が終了したときやお風呂のお湯が沸いたときなどは、メロディで知らせるものが増えてきた。ほかの家電と同様の音では区別がつきにくいうえに、追い立てられる気分になることもある。柔らかいロディ音に変わったことで、穏やかに通知を受け取ることができる。ロボット掃除機も、掃除が終了した際には幸せそうな音、部屋が汚れたときには悲しそうな音で知らせてくれる。

逆に、不快感を覚えるほど激しい音や光で通知を送るものもある。
スマホやTVから流れる緊急地震速報、パトカー、救急車、消防車といった緊急車両のサイレン、火災報知器などが該当する。こういったものは、強くメッセージを出さなくてはならないからだ。

日常生活に溶け込んだ機器ほど穏やかに、緊急時を知らせるものは激しく、メッセージの通知方法を使い分けなくてはならない。

この先、一人当たりの所有するデジタルデバイスの台数はますます増えていくに違いない。 生活の中でデジタルデバイスを意識させない「カーム・テクノロジー」はさらに重要視されるだろう。