製造業

3Dプリンターの国内普及について探る!

掲載日:2023/09/05

3Dプリンターの国内普及について探る!

2023年6月、商用初となる、3Dプリンターで施工された店舗が完成した。3Dプリンターの新たな活用法に注目が集まるが、実は国内での普及率は高くない。そこで、現在までの3Dプリンターの歴史と国内普及の問題や、これから見出すべき活路についてご紹介しよう。

3Dプリンター発展の歴史

材料を1層ごとに重ねて3次元の物理オブジェクトを作成するプロセスをAM(Additive Manufacturing:積層造形法)と呼ぶ。3Dプリンターとは、このAMを行う装置の総称だ。

1980年代から始まったとされる3Dプリンターの歴史だが、その存在が広く知れ渡ったきっかけは、2013年にバラク・オバマ米大統領(当時)が一般教書演説で触れたことにあると言われている。この演説でオバマ大統領は「3Dプリンターはあらゆるものづくりに革命を起こす」と語り、その後関連特許の権利が失効したことに伴い3Dプリンターの低価格化が進んだことも相まって、爆発的に普及した。

株式会社矢野経済研究所のプレスリリース「3Dプリンタ世界市場に関する調査を実施(2021年)」によると、3Dプリンターの世界市場規模は2017年から2019年まで右肩上がりに推移しており、2023年の3Dプリンター世界出荷台数は37万台。過去最高の数字を記録することが予想された。

このように好調な成長が期待される理由について、同調査ではコロナ禍で生産や物流に対する世界の意識が変革されたことを指摘している。具体的には、人の接触を避けることを目的に、サプライチェーンを分断して現地での生産が求められるようになった影響が大きいという。また、3Dプリンターをより短期的に部品を開発・生産する手段として利用することにも注目が集まっていると指摘している。今後は試作品や治工具の少量~中量生産用途としての導入も進み、世界の市場規模はさらなる拡大が見込まれる。

日本で普及が遅れているワケ

国外では拡大が進む3Dプリンターだが、日本では比較的普及が遅れている。これについて、一般社団法人日本3Dプリンティング産業技術協会の三森 幸治代表理事は、3Dプリンターに強い国産メーカーが育っておらず、輸入品が大半であり、国内企業が求める品質基準に応えきれていないことが問題だと指摘している。さらに同氏は、ユーザーが高額な産業グレードの3Dプリンターに触れる機会がないことや、ビジネスで3Dプリンターの活用方法を学ぶ場がないことなども問題であると語っている。

また、一般社団法人日本AM協会専務理事の澤越俊幸氏は、国内AMの普及が海外と比較すると遅れている原因について、製造業における品質保証や法定管理といった要素に着目すべきと指摘している。

例えば鉄工業においては原料となる鉄塊の物性を製鉄会社が保証していたため、新しい製造法に切り替えても製品の性質が担保されているという考え方がある。しかし、AMでは原料を溶かしたり固めたりという作業が加わるため、元来担保されていた物性が変化し保証が効かなくなるという問題がある。国内メーカーではこのような担保の喪失などを理由に生産ラインの検証や再構築が必要になるのを懸念するケースが多く、結果的にAMの普及を阻害している。

国内普及に向けて

近年、アクリル樹脂や金属など、3Dプリンターを活用できる素材が増えている。製造業だけでなく、医療や教育、自動車業界でも使い道があるようだ。開発期間やコストの削減、小ロットの製造の実現など、3Dプリンターのメリットはさまざまある。ただ、大量生産に対するハードルや法規制への対応など、課題が多いのも現状だ。

また、国内では3Dプリンターへの理解が企業あるいは個人としてもいまひとつ不十分であり、それ故に普及が進まないという状況があるのは間違いないだろう。

しかし、3Dプリンター自体の価格相場は下がっており、少なくともユーザーが手に取るチャンスは増えている。ベンダーとしてはいかにユーザーの理解を取り付けられるかどうかが、3Dプリンタービジネスの鍵となりそうだ。