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ビジネスを変える⁉ 衛星データの活用

掲載日:2023/10/10

ビジネスを変える⁉ 衛星データの活用

以前は専門知識がなければ扱えなかった衛星データが、近年では誰でも使用できる身近なものになってきた。衛星データは世界中の事象や状況をリアルタイムで正確に把握できるため、ビジネスでの利活用が進んでいる。現在、どのような業種で用いられているのか。また、今後はどのような活用方法が考えられるのだろうか。

人工衛星の役割と衛星データの種類

1957年、ソ連は世界初の人工衛星である「スプートニク1号」の打ち上げに成功した。日本の人工衛星第1号は1970年にラムダロケットで打ち上げられた「おおすみ」だ。それから半世紀以上が経ち、2022年に打ち上げられた人工衛星は2,368機に及ぶ。

近年、これほどまでに人工衛星の打ち上げ数を増やしているのはなぜなのか。人工衛星を打ち上げる主な目的である「観測」「測位」「通信・放送」の観点から見ていこう

観測

リモートセンシング技術を用いて、地球のあらゆる事象を観測する。センサーには大別して3種類ある。

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光学センサー
太陽光(紫外線などの不可視光線を含む)が物体に当たって反射する光を測ったり、対象物が放射する熱を測ったりする。植物・水の有無、地表の高さ・変化、雲の状態などを観測できる。

能動型マイクロ波センサー
地球にマイクロ波を発射し、対象物から反射して戻ってくるマイクロ波を測る。雲などの気象条件の影響を受けにくいため、夜間や悪天候時も観測が可能。能動型マイクロ波センサーの中で、特に注目を集めているものがSAR(合成開口レーダー)である。

受動型マイクロ波センサー
物体が放射するマイクロ波を測る。地表・海面の温度、雲の状態などを観測する。

測位

アメリカが開発・運用するGPSに代表されるGNSS(全世界測位システム)を用いて、位置や時刻の情報を取得する。衛星測位は4つ以上の人工衛星から発信する電波を地上の端末がキャッチすることで、位置を特定できるという仕組みだ。現在はカーナビや地図アプリなどに用いられており、自動運転やスマート農業などへの活用が期待され実証実験が行われている。

通信・放送

地上にある送信局から人工衛星に情報を送信し、人工衛星が情報を地上に送り返して広域の受信局に情報を届ける。上空にある人工衛星から情報を送るため、地上波のように建物や地形の影響を受けづらい特長がある。BS・CS(衛星放送)や携帯電話、インターネット接続などに利用されている。

衛星データの活用事例

一般的に知られている衛星放送や天気予報以外でも、あらゆる分野で衛星データの活用は広まっている。

第一次産業

農業では、農作物の色から生育状態を把握することで、収穫時期の予測に役立っている。また病害虫による被害を作物の状態から観測できるほか、使用していない場所では土壌の状態も把握できる。農作物にとって避けられない問題である遅霜や高温障害に関しても、衛星データの活用によって早期の対策を行うこともできる。また、農業機械の自動走行の実証実験にも、衛星データの位置情報が取り入れられているケースがある。

漁業では、広大な海の情報が収集可能であるため期待が大きい。海水温や海面高度、プランクトン量などから魚群探査が行われる。天然漁に限らず、養殖においても活用可能だ。また、違法漁業を行う船の取り締まりや、工業汚水の流出を防ぐという活用方法も期待されている。

林業では、広大な森林エリアを長期間監視するのに用いられるほか、樹種分類による管理や病害虫の被害把握にも活用されている。約1週間単位の変化を検出して伐採時期を確認することや、植林候補地の検出、違法伐採の検知も可能である。

防災・防衛

近年大きな災害を起こす線状降水帯など、天候の変化を即時に検知し、被害の拡大を防ぐ。有事には状況を把握し、対策につなげることができる。

インフラ管理

広大なダムや堤防、道路、鉄道路線、港湾などのインフラの変動を高精度で抽出し、劣化や破損箇所などを早期に把握できるため修繕計画などに役立てられる。

金融・保険など

衛星データとイメージが結びつきにくい金融分野だが、石油・石炭・鉄鉱石などのエネルギーや資源の備蓄状況を識別することで、経済指標や先物取引の予測に用いることができる。

事実、投資判断のために製品の生産状況を衛星データで検証したという事例もある。人流や交通量、夜間の光量からGDPを推測する研究も行われている。損害保険では、事故や災害などの迅速な把握に衛星データを用いて支払い期間の短縮を図っており、不動産でも、空き家状況や建設予定地などの状況を衛星データで把握できる。

SDGs

SDGsの目標のうち「2 飢餓をゼロに」「13 気候変動に具体的な対策を」を中心に、さまざまな項目に対応できる可能性がある。CO2の濃度、海洋、大気など広い範囲でのデータを取得し、環境汚染を防いで第一次産業の効率を上げることで、食物の安定供給が期待できる。

「SDGs」の詳細はこちら!

衛星データの今後

衛星データは容易に入手可能になってきている。しかし、いくらデータがあっても利活用できる人材がいなければビジネスにつなげていくことはできない。AIなどを用いて衛星データを活用できる人材の育成が急務となる。

今後、衛星データの入手は低コスト化しさらに入手しやすくなるだろう。そのため衛星データを活用したビジネスチャンスは増えるとみて間違いない。どのような活用方法があるか探っていくべきだろう。