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日本政府の共通クラウド基盤「ガバメントクラウド」とは

掲載日:2023/10/24

日本政府の共通クラウド基盤「ガバメントクラウド」とは

政府は、府省庁と地方公共団体のシステムをクラウドに移行し、システムの統一を図る施策、「ガバメントクラウド」を推進している。「地方公共団体情報システム標準化基本方針」では地方公共団体のクラウド移行は2025年度末までとされていたが、個別の理由があれば期限を延期することも認めた。ここでは、ガバメントクラウドの方針などを確認しながら、地方公共団体のガバメントクラウドについて見ていきたい。

ガバメントクラウドの方針

「ガバメントクラウド(Gov-Cloud)」は、政府で共通的な基盤・機能を提供するクラウドサービスの利用環境のことである。クラウドサービス(IaaS、PaaS、SaaS)の利点を最大限に活用し、利用者に利便性が高いサービスをいち早く提供、改善することを目指している。

ガバメントクラウドは、デジタル庁がパブリッククラウドサービスを契約し、それを各府省庁がシステム基盤として共同利用する形で稼働している。全府省庁の情報システムは約1,100、そのシステムの保守運用コストは約5,000億円に及ぶ。特に機密性の高いデータを扱うシステムは別として、それ以外の全てのシステムをガバメントクラウドに集約する。それにより、2025年度までにコストを3割削減することを目標としている。府省庁の中ではまず農林水産省が情報システムをAWSに移行させた。

地方公共団体の業務システム

これまで、各地方公共団体で基幹業務システムの開発やカスタマイズが行われてきた。そのため、維持管理・制度改正時などの改修も各自治体で対応しなくてはならず、大きな負担が生じていた。また、それぞれの自治体で異なるシステムを用いていたため、最適な取り組みを全国に普及させるのが難しい状態でもあった。

最近では、マイナンバーと各種情報のひも付けミスが問題になっているが、地方公共団体の中には、少数で手作業による作業を行っていたために生じたミスもあった。このような問題を解消すべく、標準化基準に適合する基幹業務システムの利用が義務付けられることになった。国は、地方公共団体や現在の基幹業務システム提供ベンダーからヒアリングを行い、標準化基準の策定・変更を行うとともに、地方公共団体・ベンダーにガバメントクラウドを提供している。

ガバメントクラウドで実現可能なもの

地方公共団体は、ガバメントクラウド上に構築する標準準拠システムを利用することになる。ガバメントクラウドはデジタル庁が契約したAWS、Google Cloud、Microsoft Azure、Oracle Cloud Infrastructureのいずれかになるが、基幹業務システムまで提供されるわけではない。そのため、基幹業務システムを構築する事業者の競争環境は確保され、ベンダーロックイン対策になっている。

また、機能要件などの仕様を標準化し、ガバメントクラウドを活用できれば、アプリケーションレベルでは複数の事業者が参入できる。デジタル庁主導でSaaSを構築して提供し、地方公共団体が利用するケースもある。ゼロベースからのシステム構築が難しい小規模の自治体でも負担なく利用できるメリットがあるからだ。

ガバメントクラウドの活用によってクラウド基盤の整備が不要となり、スタートアップや地方事業者なども参入しやすくなった。さらに自社が開発したシステムを全国的に展開する機会を得ることも可能になる。また複数のクラウドサービスから選択できるマルチクラウド環境のため、クラウドロックインが防止され、高い水準のセキュリティが担保できるメリットもある。

地方公共団体は、ガバメントクラウドの導入によって基幹業務システムに掛けていたコストや人材の削減を実現でき、その分のリソースを住民向けのサービスや地域のための新たな企画立案などに活用できる。

ガバメントクラウドの要件は、「地方自治体によるガバメントクラウドの活用(先行事業)について」令和3年8月 内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室によると、以下のとおりとなっている。

地方公共団体のガバメントクラウド移行の期限が条件付きで延期になったのは、まだ移行が順調に進んでいない自治体があるということだ。 そこを見極めれば、情報システム提供ベンダーにもまだ参入の機会はありそうだ。