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政府肝いりの政策
「スタートアップ育成5か年計画」をリサーチ!

掲載日:2023/11/07

政府肝いりの政策
      「スタートアップ育成5か年計画」をリサーチ!

日本経済の先行きが不安視される今、岸田文雄政権(2023年10月現在)の掲げる「新しい資本主義」に注目が集まっている。この政策では国内投資の活性化を目指すべきだと考えられており、その解決策の一つとして挙げられているのが「スタートアップ育成5か年計画」だ。この計画が見据えている将来、そしてビジネスに与える影響を解説する。

計画の概要とスタートアップの定義

2022年、政府は「スタートアップ育成5か年計画(以下、5か年計画)」を発表した。これは、スタートアップ企業への投資額を2027年度までに約10兆円規模に拡大することを目標とした支援計画である。この金額は、2022年時点の金額の10倍に及ぶ。

そもそもスタートアップとはどのような企業を指す言葉なのだろうか。明確な定義はないものの、革新的なアイデアによって社会を変えるような、新興企業を指す言葉とされている。具体的には「事業における革新性(それまでにない技術やスキームなどの活用、新興分野でのビジネス)」や「短期間での急激な成長」などの条件を満たす企業をスタートアップと呼ぶ。

なお、スタートアップと混同される言葉として「ベンチャー」がある。どちらも新興企業を指す言葉だが、細かい点に違いがある。例えば、ベンチャーとされる企業は必ずしも事業内容に革新性が求められるわけではない。既存のスキームで既存の分野におけるビジネスを始めた新興企業は、スタートアップではなくベンチャーに分類される。

計画を支える3つの柱

政府は、5か年計画の根幹として3つの柱と呼ばれる取り組みを発表している。また、内閣官房がホームページで公開している「スタートアップ育成5か年計画ロードマップ」にはそれぞれの施策の具体的なスケジュールと目標が記載されているため、併せて紹介したい。

人材・ネットワークの構築

3つの柱のうち第一に注目すべきは、「人材・ネットワークの構築」だ。国内の若手技術者や起業家を発掘するプロジェクトの開催や、それらの参加者を育成する海外派遣の実施、民間インキュベーション(支援)施設の整備などといった施策が打たれている。

前述のロードマップによると、2024年度に年間300人を発掘・育成し、2027年度にはメンターによる若手人材の発掘と育成500人を目指すと計画されている。同様に、シリコンバレーへの派遣などを通じた海外における起業家育成も進め、2027年度までに1,000人の派遣を目指すという。さらに小中高生を対象とした起業家教育や博士課程学生への資金援助など、将来のプレイヤーへ向けた施策も計画されている。

資金供給の強化と出口戦略の多様化

2番目の柱である「資金供給の強化と出口戦略の多様化」にも注目したい。これはスタートアップの成長を経済的に支援するものであり、ベンチャーキャピタルからの投資をはじめとした資金調達の手段を充実させるための施策である。

ロードマップを見ると、2023年度までに以前と比べて約2倍の投資規模となるファンドを立ち上げることや、2024年をめどに産業競争力強化法の改正法案を提出し、運用期限を2050年まで延長することなど、産業革新投資機構の強化を目的とした施策が計画されている。そのほかにも、国や関連機構が創業10年未満の中小企業から物件やサービスを調達する比率を引き上げるなど、公共調達の促進による経済施策についても計画が進んでいるようだ。

オープンイノベーションの推進

3番目の柱「オープンイノベーションの推進」は、スタートアップと大企業、あるいは官庁や各種学校によるオープンイノベーションの強化を目的とした取り組みである。具体的には、大学発スタートアップにおける経営人材の確保支援や、大企業に所属しながらスタートアップを立ち上げた場合には出向企業補助金を支援するなどの施策を行う。

ロードマップには、スタートアップへの円滑な労働移行を促すことを目的として、2023年度までに新たに指針を取りまとめることや、副業を目的とした人材譲渡に対する支援事業の実施計画などが記載されている。

言うまでもなく、ゼロから始まるスタートアップ企業の立ち上げに際しては、ベンダーの協力が重要だ。公的な支援や優遇措置によりコストを消費しやすい環境にあるならば。なおさらベンダーのビジネスチャンスとなることだろう。

2022年にスタートしたこの計画は、下準備の段階を経て実際に行動するフェーズへと移行しつつある。スタートアップに働きかける絶好のチャンスを見逃さないようにしたい。