流通・小売業

待ったなし! 2024年問題を最終チェック

掲載日:2023/12/05

待ったなし! 2024年問題を最終チェック

2024年4月からトラックドライバーなどの残業時間規制が適用され、ドライバーの時間外労働時間は年間で上限960時間となる。ドライバーの過重労働が防げる半面、1人あたりの走行距離が少なくなり、円滑な長距離輸送ができなくなることが懸念されている。施行まで半年を切った現在、物流業界の「2024年問題」は解決の道筋は立っているのだろうか。

物流の2024年問題とは?

働き方改革関連法が2018年に成立し、大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から時間外労働が720時間に制限された。ただ、自動車運転業務、建設事業、医師、鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業、新技術・新商品開発等の研究開発業務の5業種については、時間外労働の上限規制適用が猶予または除外されている。

トラックやバス、タクシーなどのドライバーは、もともと時間外労働が多い業種であるため、1年あたりの時間外労働時間の上限を960時間、1日あたりの拘束時間を原則13時間以内、最大15時間以内とする「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」が2024年4月1日から適用される予定だ。またこの基準では1カ月あたりの拘束時間は原則284時間、年3,300時間以内(ただし労使協定により年3,400時間を超えない範囲内で310時間まで延長可)とされている。

労働時間規則等の改正で何も具体的な対応を行わなかった場合、2024年度には輸送能力が約14%(4億トン相当)、2030年度には輸送能力が約34%(9億トン相当)不足する可能性があるといわれている。

業界を取り巻く状況

2023年1月に実施された、全日本トラック協会「第5回働き方改革モニタリング調査結果」で約30%(長距離輸送では約40%)のトラックドライバーが時間外労働年960時間超となっている。
国土交通省が発表した資料「物流の2024年問題について」によると、トラックドライバーの年間労働時間は全業種と比較して約2割長い。その主な要因には、長時間の運転時間や荷待ち時間、荷役作業などが挙げられる。

時間外労働と拘束時間が規制されると、現状1人のドライバーが1日で運送していたものを2日間または2人で運送する必要が出てくる。例えば、12.5時間の拘束時間がある東京―大阪間の運送を行う場合、1日あたり12時間の拘束時間の上限があるためドライバー1人では運ぶことができない。このため、コスト増・サービス低下などの影響が出てくる可能性が指摘されている。

物流革新緊急パッケージ

「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」は2023年6月に「物流革新緊急パッケージ」を発表した。
政府は賃上げや人材確保などを早期に得られるよう、必要な予算の確保も含めて対策を進めている。

緊急パッケージは次の3つで構成される。

物流の効率化

物流事業者にかかる負担や人材不足対策のために、設備投資・物流DXを推進し、高速道路での自動運転トラックの実証実験やドローンを使用した配送などで人材不足を補う。また、運送を鉄道や船などにモーダルシフトしていくことも図り、そのために荷役台であるパレットを標準仕様にするなどの対応をする。

さらに、従業員の負担軽減のために物流施設での作業などの自動化・機械化を進めることや、燃油価格高騰を踏まえて物流拠点の脱炭素化、車両のEV化などで物流GX(グリーン・トランスフォーメーション)も目指す。

荷主・消費者の行動変容

宅配の再配達数を半減させるために緊急的な取り組みを行う。そのために、政府広報やメディアを通じた意識改革・行動変容の促進を強化する。

商慣行の見直し

トラックGメン(トラック運送における不適正な取引を監視する役割)による荷主・元請事業者の監視体制を強化し、11~12月には集中監視月間を設ける。また、物価動向の反映や荷待ち・荷役の対価などの加算で標準的な運賃の引き上げも行う。

上記3つのほか、高速道路のインターチェンジや幹線道路の周辺に倉庫などの物流施設を整備しやすくするために規制を緩和する方針も発表されている。主要ルート近くに施設を設けることで、荷物の積み替えなどの作業効率化を図るためだ。対象となるのは、建築に制限がある市街化調整区域である。

物流各社の対応

大手運送会社2社は、協業してA社が集めたポストサイズの荷物をB社の配送網で配達するなどの取り組みを行い、両社の経営資源を有効活用して、社会課題の解決を目指している。

食品スーパー大手の傘下企業2社は、配送網を共通化。さらに、「ゆとり配送」も取り入れた。従来では当日配達を行っていた商品を、原則として前日までに輸送量を確定させ、1日に運ぶ商品量を明確にした。店舗への商品到着時間も以前よりゆとりをもたせるようにした。

ある大手鉄鋼メーカーでは、ビルの建設などに用いるH形鋼について納入先の建材加工会社と納期を見直す交渉を進めている。従来、受注から納品まで最短2.5日だったのを7日に延長することで、運送会社に余裕が出ることが期待されている。

現場作業に目を付けた企業もある。ある包装材メーカーは段ボール管理に電子タグを導入した。数メートル先から複数のタグを読み取れるようになり、納品先での商品確認が短時間で済む。運転手が作業終了を待つ時間が短縮され、拘束時間が減るという効果があった。

大手衛生用品メーカーでは、運搬効率の向上を図り、大人用紙おむつの内容量を変えずパッケージを小型化した。10トントラックの使用を年間1,000台程度削減できる見込みだという。

化成品・医療品を中心に事業を展開する複合商社では、AIを用いた共同輸送サービスを開始し、国内の化学メーカーや化学品輸送業者などに展開する。荷主が運送したい化学品や目的地を入力すると、AIがトラックの積載量を増やしたい荷主などと引き合わせ、双方の合意が得られれば共同輸送するという仕組みだ。

物流は、あらゆる産業に関わる問題だ。ベンダーとして協力できることがないか、常に考えていきたい。