製造業

製造業へのAI予知保全の導入について知るべきこと

掲載日:2023/12/19

製造業へのAI予知保全の導入について知るべきこと

製造業のAI予知保全に注目が集まっている。導入コストこそ必要だが、長い目で見ると機械の故障によるダウンタイムや保守のための部材費や人件費の軽減が図れるからだ。AIの活用により、製造業における予知保全からはどのようなメリットが生まれるのだろうか。

予知保全の重要性

工場で発生するトラブルのうち、最も頻繁に発生するのは機械の不調や故障だという。予期せぬトラブルは製造機会の損失を生み、場合によっては企業にとって大きな損失にもつながってしまう。

そのため、工場内での設備や機械の故障がないように製造業ではさまざまな対策をとってきた。その対策というのが、工場の製造工程で設備や機器が故障した場合、問題が発生した時点で修復をする「予後保全」や、機械や部品の耐用年数などに応じてメンテナンスや部品交換を行う「予防保全」などだ。

しかし、IoTやAIの発達によって、工場の正常状態を保つ方法が「予知保全」に変化してきている。設備や機械が故障する際は異音がするなど何らかの予兆がある場合が多い。その予兆をとらえて保全業務を行うのが予知保全だ。

予後保全では、機械の故障から修理までにダウンタイムが生じる。また、予防保全では定期的に部品交換やメンテナンスを行うため、予知保全に比べてメンテナンス費用がかさむ傾向にある。

つまり、予知保全はダウンタイムを防いで工場の稼働率をアップさせ、さらにメンテナンスにかかる部品代、人件費なども削減できる可能性があるということだ。

予知保全への生かし方

予知保全では、施設・機械の状態を常にリアルタイムで監視する必要がある。複数のセンサーを製造ラインの各所に取り付け、稼働時間や温度、振動などのデータを収集する。

AIの導入以前、大規模な工場では収集したデータの数が膨大だった。そのため予兆と故障との相関関係を見つけたり、異常値を発見したりすることがコンピューターの計算だけでは難しく、熟練工による経験などに頼らざるを得ないところがあった。

しかし、AI技術が発達しデータの分析の自動化が実現したことで、故障や異常が起こる前に予兆を検知し、事前にメンテナンスを行うことが可能になった。

AI予知保全の構成

ソリューションによって異なるが、よくある予知保全システムとして、「自動化・運用サーバー」と「分析・予測サーバー」で構成する方法が挙げられる。

自動化・運用サーバーは予兆検知要求を自動化し、実行運用管理をする役割だ。任意の時点あるいは定期的に分析を行い、結果の通知などを行う。分析・予測サーバーは、自動化・運用サーバーの指示に基づいて予測・評価を実施する。

また、予知保全には以下のような技術が用いられている。

センサー類

センサーは、設備・機械の状態をデータ化するために用いられることが多いが、機械の劣化や作業員の行動などをデータとして保存する場合もある。人や障害物を検知する際には、画像センサーと温度センサーで形状を読み取り、レーザーセンサーで距離を測っている。

広い工場では数多くのセンサーが必要なので、Wi-Fiや5Gなど、無線通信でつなげるものが望ましいとされる。

その他、振動センサーや電流センサー、電圧センサーなどで電流・電圧の値、機械の部品の摩耗や変形などの異常を検出し、解析を行っている。

ディープラーニング(AI)

複数のセンサーから収集した多くのデータは、ディープラーニング(AI)の技術で分析を行う。出力した結果に誤りがある場合はディープラーニングで改善する。

エッジAI

エッジサーバーや各種センサー、カメラ、携帯端末などのエッジデバイスでAI処理を行うもの。クラウドAIはネットワークで接続したクラウドサーバーでAI処理を行い、その結果を出力してエッジデバイスに返す仕組みだが、エッジAIならネットワークを通すことなくエッジデバイス上でAI処理を行うため、応答速度やセキュリティ面でクラウドAIより優れている。

AI予知保全の導入事例

製造業における予知保全に、AIを導入した実際の事例を2つ紹介しよう。

大手都市ガス事業者の場合

以前からセンサーを活用した設備機器のデータ分析は行っていたが、蓄積されたデータ量が膨大になり、人力で分析することが不可能になった。そこで、異常検知ソリューションを導入。時系列データやセンサーなどのデータをAI分析し、予知保全を行うことで、最長で1週間前に予兆を検知することに成功している。

とある総合機械製造会社の場合

物流拠点など大型倉庫の冷蔵設備で使う冷凍機の保守サービスとして、予知保全を導入している。製品発売時点の2008年から遠隔監視サービスを提供し、異常があると保守担当者が駆けつけていたが、台数が増加するにつれ情報の把握が困難になってしまった。そこでセンサーデータの機械学習が可能なクラウドサービスを導入。吸入圧力や吐出圧力、モーター回転数、圧縮機の振動、冷却水の温度など約30の指標で定常状態を学習し、定常状態と現状との違いを検出可能になった。

このほかにも、AI予知保全の導入や実証実験は次々と実現している。市場規模も成長しており、ますます注目されることだろう。製品提案が必要になるときに備えて、常に最新情報にアンテナを張っておきたい。