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新時代のものづくり デジタルファブリケーションとは

掲載日:2024/02/27

新時代のものづくり デジタルファブリケーションとは

昨今は3Dプリンターが進化して、建造物のパーツから人工内臓まで、あらゆるものが作成できるようになった。進化を続ける3Dプリンターをはじめ、デジタルデータを元にした製造技術のことをデジタルファブリケーションという。新たな技術であるデジタルファブリケーションにはどのようなメリットがあり、実際には何が製造されているのだろうか。

デジタルファブリケーションとは

総務省の「平成28年版 情報白書」では、デジタルファブリケーションは「デジタルデータをもとに創造物を制作する技術のことである。」と定義されている。実在する物のデータや、創作したアイデアをデジタルデータ化したものをデジタル工作機器で読み込み、造形するのがデジタルファブリケーションだ。造形するために使用される機器は、3Dプリンター以外にも存在する。

3Dフードプリンター

3Dプリンターの中でも食品に特化した機械。ペースト状の食品を3Dデータに基づいて造形する。ケーキの装飾やチョコレートなどを思いのままの形に作れる。

レーザー加工機

レーザー光線を照射して、材料の切り出しや穴開け、彫刻などを行う機械。CADソフトやグラフィックソフトで作成したデータを元にして、紙や木材のほか、アクリルや皮革、布、金属、石材など、さまざまな材料を加工できる。レーザーカッターと呼ばれることもある。

CNCフライス・CNCミリングマシン

コンピューター数値制御(CNC)技術で動作する切削加工の機械。手動または機械で行っている作業をコンピューター制御で自動化することで、手動では実現できない精度で部品を製造できるようになった。

デジタル刺しゅうミシン

コンピューターミシンともいう。コンピューター制御で縫い目や刺しゅうを調節できるミシン。

デジタルファブリケーションのメリット

デジタルファブリケーションのメリットとしてまず挙げられるのは、コンピューターでの制御によって造形の自由度が上がり、従来の方法では実現不可能だった精密な制作が可能になったことだ。実際に、CNCフライスでは5マイクロメートル(0.005mm)という誤差範囲で部品を加工できる。

また、デジタルファブリケーションではデジタルデータを基に自動もしくは半自動で製造を行うため、試作品製造も容易になった。複雑な形状でも製造できるようになったことで、これまで複数のパーツを組み合わせて作っていたブロックを、一つのパーツとして製造できるため、組み立て工程、そして業務コストの削減が期待できる。

そのほか、少量での製造ができる点もデジタルファブリケーションのメリットだ。従来はロット数を増やさなければ製品化するのは難しかったが、無駄な在庫を抱えることもなくなり、制作コストや人材費の縮小にもなる。さらに小型の部品や製品などを作る場合は大規模な工場を利用する必要がなくなるため、個人単位で製造業を営むことも可能である。

デジタルファブリケーションで実現可能な未来

日本で臓器移植を希望し、日本臓器移植ネットワークに登録しているのは約1万6,000人。そのうち実際に臓器移植ができた人は1年でわずか約400人だという。その大きな原因の一つは臓器提供者の不足にある。

これを解決する手段として期待されているのが人工臓器だ。各国で実証実験が進んでおり、人工血管や人工心臓、人工肺などが作られている。人工肺や心臓などの臓器は気道や血管などが入り込むため、簡単に作成できるものではないが、ヒト細胞を用いたバイオ3Dプリンティングといった技術で実用化が進んでいる。これらの試みは2030年頃には実用化するとの見解もある。

人手不足や資材高騰が問題になっている建築関係からも、3Dプリンターには大きな期待が寄せられている。2022年夏には、3Dプリンターで制作した家が愛知県小牧市で発売され、話題になった。また2023年8月には、床面積50平米の1LDK住宅が6棟限定で販売された。施工時間は1棟につき、44時間30分だったという。さらにビルの建設にも3Dプリンターの導入が進められており、大手ゼネコンはビル建設に使用する柱やはりなどを製造する技術を開発した。これにより、従来の手法と比較すると7分の1程度に作業時間が短縮できる見込みだ。

世界的には、航空宇宙業界で3Dプリンターの活用が進んでいる。航空機やロケットには多くの部品が用いられるが、各部品のロット数は小さく精密さが求められるため、部品一つから製造できる3Dプリンターは航空宇宙業界と相性が良い。

世界でのファブリケーションへの取り組み

アメリカやイギリス、ドイツなど海外では、3Dプリンターの研究が産官学連携で進められている。アメリカでは、2012年に100以上の企業・非営利団体・教育機関・政府組織から成る「NAMII(National Additive Manufacturing Innovation Institute/名称は後に『America Makes』に変更)」が設立され、研究開発や人材育成推進の取り組みを行った。イギリスでは、2004年に「技術戦略委員会(Technology Strategy Board/後に名称を『InnovateUK』に変更)」を設置し、2013年以降は3Dプリンターによる研究開発プロジェクトに投資するなど、さまざまなプロジェクトを推進している。

日本でも3Dプリンターなどをはじめ、小規模なデジタルファブリケーションは広がりつつある。ただ、日本は諸外国と比較して遅れているとも言われる。その原因の一つに、各業界で定められている基準が厳しいことがある。例えば建築業界で言えば、3Dプリンターで製造した家の素材は現行の建築基準を満たしておらず、建物ごとに国土交通大臣認定を受けなければならない。加えて、世界で3Dプリンターを積極的に利用する医療、航空宇宙、エネルギー業界の競争力が高いとは言えない状況も影響しているだろう。

とはいえ、企業レベルでは次々とデジタルファブリケーションによる製品が生み出され、医療業界などでも研究・開発が進められている。近い将来、日本でもデジタルファブリケーションがものづくりスタンダードとして定着する可能性に期待したい。

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