IoT・AI

日本企業はAI人材の不足とどう向き合うべきか

掲載日:2024/03/12

日本企業はAI人材の不足とどう向き合うべきか

ビジネスにAIを活用したいという考えはあるものの、自社内にAIを使える従業員がいないためにAI活用がなかなか進まないことを問題視している経営者は多いことだろう。現在、日本ではAI人材の不足が問題になっている。そこで今回は、AI人材確保の方法とAI活用のメリットを事例も踏まえて解説する。

日本のAI活用はどのような部分が遅れているのか

IMD(国際経営開発研究所)が発表した2023年版「IMD世界デジタル競争力」によると、日本は前年調査より3位後退して32位となっている。これは、2017年の調査開始以来、過去最低の数字だ。サブ因子を見ると「人材(49位)」、「ビジネスの俊敏性(56位)」といった項目が低調であり、これが順位を下げた原因だと考えられる。

また、総務省が発表した「令和元年版情報通信白書」を見ると、日本において「一部の業務をAIに置き換えている」、「一部の業務でAIのパイロット運用を行っている」と回答した企業の割合は合計して約39%と低調。アメリカやフランスといった先進諸外国の数字を下回ったほか、85%を記録した中国とは2倍以上の差があることが分かる。なぜこれほど日本のAI活用は遅れているのだろうか。令和2年版の資料によると、「日本の企業がIoT・AI等のシステム・サービスを導入しない理由」について、「導入すべきシステムやサービスが分からないから」、「使いこなす人材がいないから」という回答が上位を占めていた。

上記の調査から、日本におけるデジタルの問題とAI活用が進まない理由には人材不足が共通していることが分かる。

中小企業がAI人材を確保するためには

AIを含むIT全般に精通したデジタル人材が不足していることはほとんどの企業にとって共通している問題だろう。そこで企業に求められるのは、中長期的な目線を持って人材を確保することだ。具体的な解決法は大きく分けて二つある。一つ目はスキルを習得した人材を積極的に採用すること、二つ目は既に確保している人材にスキルを習得させることだ。

スキルを習得させる試みは、既に国レベルでの施策が始まっている。前述した総務省の資料によると、高等教育機関などで数理・データサイエンス・AI教育の推進が始まっている。2025年までに応用基礎レベルに達した人材を年25万人ペースで輩出する計画であるため、企業としてはこのような教育を受けた人材を評価したうえで採用活動に力を入れることが望ましい。

また、同時に近年はリカレント教育として大学・専門学校と連携したリスキリングプログラムが実施されているほか、地方にDX拠点を20カ所創設して実践的な学びの場を提供することでIT関連スキル習得を支援する事業も進んでいる。デジタル人材が必要な企業としては、これらの施策を従業員のスキルアップに活用するべきだろう。

AI人材の業務事例を紹介

AI人材の専門的なスキルはどのような業務に生かされるのだろうか。実際の中小企業の活用事例を紹介する。

AIに未来のトレンドを分析してもらう

とある製造業を営む中小企業では、3~5年後にトレンドとなる商品をあらかじめ予測する方法を模索していた。そこで、官庁が主催するAI人材育成事業に従業員を参加させ、課題解決のために必要なスキルを習得させたという。

結果的に同社では検索エンジンなどから特定語句をAIが自動的に収集・分析するシステムの構築に成功し、中長期的なトレンド把握に大きく役立てることができた。また、アメリカや中国などの今後の成長が期待される地域でのトレンド把握もできるようになり、将来的に海外市場へ注力する計画もできている。

複雑な要素を考慮して最適な入場料を模索

また、別の中小の建設系企業は、自治体から管理運営を受託している施設の入場料を改定するに当たって最適な値段の設定を模索していた。しかし、入場者数をキープしつつ収益を増加できる入場料を設定することは非常に困難であり、自治体へ説得力ある提案をするのが困難だった。

そこで同社では顧客分析にAIを活用する専門チームを編成。専門チームは入場者から取ったアンケート結果を基に顧客の期待値を把握し、AIによる収益シミュレーションを実施した。顧客の心理的影響なども考慮した三つのプランを作成し、最も減益の可能性が低い入場料プランを自治体へ提案することに成功している。

AI活用の波に置いていかれないために

多くの企業が、AI活用によって課題解決の活路を見出している。将来的にAIはマンパワーでは解決できない課題に対応する手段としても注目されているため、リソースが少ない中小企業にとっては特に有効な武器になるだろう。

裏を返せば、今後、AI活用ができない企業は他社に置いていかれる可能性が高い。このような状況に不安を抱える企業が多いからこそ、具体的な活用策まで含めた提案を進めていきたい。