建設・土木業

進む社会インフラの老朽化
テクノロジーを駆使した対策を紹介

掲載日:2024/03/19

進む社会インフラの老朽化

近年、道路やトンネルの老朽化が原因とされる大きな事故が多発している。社会インフラの老朽化は、私たちの生活に密接に関わる社会問題の一つだろう。今回はそんなインフラ老朽化の現状を踏まえ、AIを含むテクノロジーを活用した老朽化対策を紹介する。

社会インフラ老朽化の現況

社会インフラの老朽化は、2012年に発生した笹子トンネル天井板落下事故を契機に議論が活発化した。近年も、和歌山市の紀の川に架かる水管橋の一部崩落(2021年10月)やしなの鉄道の脱線事故(2023年6月発生)など、老朽化が原因の事故が起きている。

現在日本では高度成長期以降に整備された各種社会インフラの老朽化が加速しており、今後も建設から50年以上が経過する社会インフラはさらに増加する見込みだ。

上記データを踏まえると、老朽化対策が必要な社会インフラは加速度的に増えていくことが予想されるが、一方でインフラの多くを管理している地方自治体の土木費は1993年度の約11.5兆円をピークに2011年度までの期間に約半分(約6兆円)にまで減少。加えて、技術系職員の数も減少傾向にある。

こうした厳しい財政状況および技術者の減少を背景に、日本では限られたリソースでも最大限の効果を発揮する老朽化対策の必要に迫られている。

参考:国土交通省におけるインフラメンテナンスの取組|国土交通省

AI・テクノロジーを用いた社会インフラ老朽化対策

老朽化対策の鍵となるのが「テクノロジーの活用」である。ここではAIを含むテクノロジーを用いた社会インフラ老朽化対策を紹介する。

レーザーによるトンネルの点検

レーザー打音検査装置を用いてトンネルの天井や壁を覆う覆工コンクリートの点検を行っている例がある。この場合、レーザーをコンクリートに照射してコンクリート内部の損傷を定量的に点検・記録している。従来は点検の際、高所作業車のバスケット(作業床)に検査員が乗って目視確認および打音検査で点検を行っていた。しかし、このやり方では手間と時間がかかるほか、検査員によって点検結果のばらつきも生じる。

一方、レーザーを用いた点検では検査員による判定の違いを解消できるほか、診断品質の向上も期待できる。加えて、損傷具合を定量的に記録として残して過去の数字と比較することで、点検およびメンテナンス作業の効率化を図ることができる。

空港滑走路点検のAI活用

AIは滑走路の点検にも活用されている。日本のとある空港では職員が点検車を運転して目視で点検を行っており、その際に点検車に取り付けられているドライブレコーダーで滑走路状況の画像を記録。その画像からAIが滑走路のひび割れ・損傷などを分析・自動検知している。

橋梁モニタリングシステムによる橋梁の異常検知

橋梁モニタリングシステムでは橋梁に設置したセンサーで傾斜や振動を計測し、橋梁の変状把握や異常時には登録デバイスへのデータ送信などを行う。

従来、橋梁の点検作業は全て人の手で行われていたが、同システムの活用によって点検作業の大幅な効率化とコスト削減が図れる。加えて自然災害による異常をリアルタイムで検知できるため、早期対応が可能になる。

スマホ・AI活用による路面変状の把握

道路舗装の老朽化対策の一つとして、スマホおよびAIを活用して路面状況を把握する技術もある。まずスマホを車両のダッシュボードに設置して、内蔵センサーで路面の水平を計測。小型車載カメラで撮影した動画をAIによって解析することで路面変状を検知する。実際にこの技術を試行したある自治体では、緊急の要修繕箇所を特定できたという。

老朽化問題に取り組む企業のIT化が進む可能性あり

社会インフラに関する事故は私たちの生活に多大な影響を及ぼすため、国土交通省もインフラのメンテナンスを進めている。

一方で、財源および技術者不足が懸念される日本では、テクノロジー活用による効率的な老朽化対策は必須であると言えよう。そのため、これまでテクノロジーの活用に消極的であった企業でもIT化が進む可能性は高い。ベンダーとして老朽化対策に取り組む企業に対してニーズの変化を正確に捉えたうえで、最適なテクノロジーの提案を行い、社会インフラ老朽化問題へ寄与していきたい。