BCP

目前の課題に臨機応変に対応する力
それが今の日本には欠けている
~防災家・危機管理アドバイザー/広島国際大学非常勤講師
野村 功次郎 氏~

掲載日:2024/04/23

目前の課題に臨機応変に対応する力、それが今の日本には欠けている~防災家・危機管理アドバイザー/広島国際大学非常勤講師 野村 功次郎 氏~

元日に発生した能登半島地震は、我々に災害対策の重要性を再認識させることにつながった。では、企業はどのような観点で防災対策を考え、BCP(事業継続計画)を見直していくべきなのか。会社と従業員を本当に守ろうとした際に注目すべきポイントを消防士として20年以上勤務し、現在は防災家という肩書で幅広い啓発活動を行う野村 功次郎氏にたずねた。

経緯を知る大切さに気づかされた消防士時代

BP:野村先生は23年にわたり消防士として勤務し、その経験のもと、防災家・危機管理アドバイザーとして多様な情報発信を行っています。本日は消防士としての道を選んだ理由からお聞きしたいと思います。

野村 功次郎氏(以下、野村氏):私は未熟児として仮死状態で生まれ、発達も遅れ、中学生のときには関節の病気を患いました。部活に熱中し、青春を謳歌するような生活とは真逆な青春時代を送っています。

関節の病気については、中学・高校時代に二回手術を行い、独学のトレーニングの成果もあり、なんとか人並みに動けるようになっていますが、こうした中、私のハンデを理解し、常に支えてくれたのが両親でした。

経済的に大学進学が難しかったという事情もあったのですが、私が消防士という進路を選んだ背後にあったのは、苦労を掛け続けた両親に一刻も早く安心してもらいたいという思いがありました。高校卒業時には、警察官、消防官、海上保安官の試験にパスし、県外への異動がないという理由で地元の消防局を選びました。

BP:すると当時、消防官を選んだのは、なにか特別な思いがあったわけではなかったのですね。

野村氏:親孝行がすべてです。初任給も最初のボーナスも両親にすべて渡していますからね。本来なら地元の消防局で定年まで勤めあげるはずでしたが、仕事には必ず、人生を変えるような出会いがあります。私の場合、それは配属されたレスキュー隊でのある先輩との出会いでした。

印象は最悪でした。最初は名前も呼んでもらえず、「おい!」と完全にもの扱い。こんなに厳しい先輩は、たまったものではないなと思いました。しかし、仕事に取り組む中で、知らぬ仏のやさしい言葉にはない、地獄の鬼の言葉一つひとつの重みが見えてくるわけです。

レスキュー隊の仕事は常に命がけです。判断を誤れば、本人はもちろん部下の命も危険に晒します。こうした中、常に機敏に行動し、毅然とした態度でレスキューという仕事に向き合う先輩の仕事ぶりに感化された私は、これまで以上にトレーニングに励み、先輩の行動を真似ることを目指しました。

そんなある日、先輩に言われたのは「目に見える形だけ真似ても、なんの意味もないぞ」という一言でした。結果を真似るだけなら、誰にでもできます。しかし現場の状況に応じて常に適切な判断が行えるようになるには、判断の前提を正しく理解することが必要というわけです。言われてみれば、まったくその通りなんです。

周囲が右側に注目する中、左側にも注目するように促す理由は、全方向への注意がないがしろになったことを原因とした事故が多いからです。消火チームの進路や配置についても同じです。気温や湿度、風向、風速を頭に入れていなければ、炎や煙に巻き込まれてしまう危険性が生じます。

私が今も大切にする、一つひとつの判断の背景にある、目に見えない事柄に注目することの重要性はすべてその方から学びました。

BP:仕事ができる先輩の形を真似るというのは、職種を問わずありがちな話ですね。

野村氏:いい車に乗ったり、いいスーツを着たりを真似るだけなら、それは誰にもできますよ(笑)。大切なことは、実は目に見えない部分にあるのです。私が大切にするフィードフォワードの考え方もその方から学んだものです。この言葉を先手必勝という意味で捉える方もいるようですが、それはまったく見当違いです。常に先手、先手で物事を考え、守りを固めていくというアプローチ法は、あらゆる課題解決に役立つ考え方です。

防災で大切なのは能動的に動けること

BP:次に本題である企業における防災の考え方についてお聞きしていきたいと思います。従業員の安全を確保し、事業を継続する上で企業がまず取り組むべきポイントはどこにあるのでしょう?

野村氏:企業では従業員が組織のルールや数字といった目に見える分かりやすいものに基づいて動くことが一般的で、行動の多くは受動的なものになりがちです。一方で大災害時には、多様な状況に応じて自らが判断し、能動的に行動する力が求められます。真のBCPに取り組もうとするなら、従業員が能動的に行動する力を培うことから始める必要があると考えています。

BP:緊急時の対応策をあらかじめ取り決め、その取り決めに従うことで被害を最小限に留めることはBCPの基本的な考え方です。

野村氏:BCP自体を否定するつもりはまったくありません。しかし、BCPを整備すれば、それで災害対策は万全と考えてしまっては危険と言わざるを得ません。私自身のレスキュー隊員としての体験からも、災害現場では常に臨機応変の対応が求められます。

こちらの記事の全文はBP Navigator to Go「ニッポンの元気人」からご覧ください!
https://bp-platinum.com/platinum/view/files/bpntogo/genkijin/