組織改革

新しい時代のビジネス人材育成法

掲載日:2024/05/21

新しい時代のビジネス人材育成法

ビッグデータ分析や生成AIの活用などが広がり、ビジネスにはIT人材が欠かせなくなった。新しい時代を企業が生き抜くために、活躍できるIT人材を育成することが喫緊の課題である。企業内でどのように人材育成をすべきなのか、その手法と事例を見ていこう。

これからの時代に求められる人材とは

2025年に団塊世代(1947年~1949年生まれ)が後期高齢者となり、今後は深刻な人材不足が避けられない。このような状況の中、特にIT人材はDXの定着や、ビッグデータ、IoT、生成AIの発展により、それぞれの専門分野での人材が不足している。また、現在は農業や製造業、建設業などあらゆる業種でAIやIoTの活用が進んでおり、IT人材を必要とするのはもはやIT業界だけではない。今後、IT人材不足はますます深刻になると見込まれている。

小学校からプログラミングを学び、高校では情報科目が必修となるなど、これからの社会を担う子どもたちが働くようになる頃には、全員がIT基礎知識を身に付けていることになるだろう。しかし、それまでは企業自らがIT業務を担当する人材を育てるしかない。

人材育成の方法は?

人材育成の手法は、「OJT(On the Job Training)」「Off-JT(Off the Job Training)」「SD(Self Development)」に分けられる。

OJTとは正規雇用労働者への教育訓練で、日常業務に就きながら行う育成方法である一方、通常の業務を一時的に離れて行う研修をOff-JTと呼ぶ。またSDは自己啓発のことである。厚生労働省の「平成30年版 労働経済の分析」では、人材マネジメントの方針や従業員規模にかかわらず、従業員の能力開発においてOJTを重視している企業が多いとの調査結果が出た。

OJTを重視している企業が多い反面、上司が忙しく部下を十分に育成・指導できていないという課題をもつ企業も少なくない。OJTにしっかり時間を割ける状態にすることは人材育成の要にもなりそうだ。

また、アメリカの経営学者のチェスター・バーナード氏が提唱した「バーナードの組織の3要素」では、組織が成り立つための条件として「コミュニケーション」、「協働の意欲」、「共通の目標」が挙げられている。人材育成においても、組織の上層部と従業員が共通目的を持って目標を設定することやモチベーションを管理すること、会話を欠かさないことが重要であることに変わりはない。

さらに、近年はジョブ型の人事制度も注目されている。ジョブ型人事というのは、職務内容(ジョブ)を明確にしたうえでそのジョブを遂行できる人材をはめ込む方法だ。育成するのと同時に、採用や配置転換で適材適所を考えていくと良いのではないだろうか。

人材育成事例

業種別に、企業の社員研修や人材育成の事例を紹介しよう。

小売業

近年業績を伸ばしている、作業服やアウトドア用品などを販売する大手小売企業では、社員全員がデータを基に議論できるように表計算を使った「データ活用研修」を実施した。表計算ソフトが得意な社員が講師を務め、社員同士で教え合う試みも行われた。

この研修により、従来のように経験や勘を頼らずに、若手や中堅層を含む全社員がデータを用いた戦略を議論できるようになった。

飲食・サービス業

伊勢神宮の周辺に店を構える老舗飲食店を営む企業では、中小企業ながら来客予測やマーケティングにAIを活用してきたほか、内部人材育成を通じてデータ分析システムの開発に成功しており、現在はシステム開発部門を独立させてシステムの開発・販売会社を設立した。同社のシステムはWebアンケートで顧客の声をデータ化して自動集計する機能も有しており、食材の仕入れや人材配置などを最適化するのに加え、改善点の把握が容易になり従業員のモチベーション向上にもつながった。

システム開発をきっかけに従業員の隠れた適性が発見されたことから、希望によってサービス業からIT職種への転換も柔軟に行っているという。

情報・通信業

日本の大手フリーマーケットアプリ運営企業では、従業員の国籍や経歴が多様化しており、国籍の数は約50カ国。このような背景から、エンジニア・人事などのジョブごとにグレードや給与レンジが設定され、昇給率や賞与に反映されている。グレードに期待される成果や本人があらかじめ設定した目標に沿って人事評価がなされるほか、給与レンジは半年~1年ごとに見直しされるため市場価値の変化にも対応できる。

業態や企業規模などそれぞれの組織ごとに合った人材育成方法があり、これが正解というのは難しいところもあるが、目標を経営者と従業員全員で共有し、そのために何を学べば良いのかを考えることが重要だろう。