IoT・AI
デジタル庁の検証事例から生成AIの活用法を探る!
掲載日:2024/08/20
ここ数年、生成AIの活用が自治体の行政業務にまで広がっている。ただ、導入してみて初めてその問題点や注意すべきポイントが明らかになることも珍しくないため、事前に導入事例や実態調査から学んでおくことが重要だ。今回は行政における生成AIの活用にスポットを当て、デジタル庁が公開している検証結果を紹介する。
検証の目的と概要
2024年5月、デジタル庁は生成AIの適切な利活用に向けた技術検証の結果を「行政における生成AIの適切な利活用に向けた技術検証の環境整備」で公開した。これは、2023年12月から翌年3月までの約4カ月間で、デジタル庁を含む中央省庁の一部職員や一部自治体の行政業務に生成AIを導入した結果を分析したものである。
検証を行った理由は、近年の急速なAIの進化によって行政でもAIの活用環境を整備する必要が生じたためである。また、現在の中央省庁や自治体では、生成AIを安全に、かつ効率的に運用するための環境が整備できていないため、この検証を通じて生成AIの利活用のノウハウを習得することも目的としている。
各分野における主な検証結果
今回の検証では、生成AI技術を活用した行政向けサービスを展開している、ある企業の生成AIプラットフォームを採用。各行政業務に合わせた適切な生成AIの活用方法や、その改善効果などを報告している。実際の取り組み事例とその効果は以下のとおりである。
パブリックコメントへの対応業務
生成AIの活用例として、住民から寄せられるパブリックコメントへの対応業務が紹介されている。パブリックコメントは万単位の数が寄せられることもあり、人力だけで全てを精査することは困難であるため、このような場面で生成AIを活用する効果は大きい。
具体的には、パブリックコメントの分類や回答の作成などに生成AIが活用され、パブリックコメントが適切に処理されているのかを検証。整合性や回答内容の精度などを評価基準にした最終得点率は、分類については約95%、回答書については約60%を記録した。また、作業時間についても、仮に1万件のパブリックコメントが寄せられた場合、従来は約670時間を要していたところを、約170時間まで削減できるとの推測結果も出ている。
これらの報告より、生成AIを活用することで大幅な業務時間の削減が可能だということが分かるが、効果的な活用のためには導入分野を選別することが重要である。現状、パブリックコメントの処理については実際に人間が対応した場合と同等の品質で処理を行うことは難しく、人間が原文を把握したうえで、あくまで下読みのような補助にとどめた方が効果的であると評価している。ただし、前述の結果からも分かるように文章読解については既に生成AIが高い精度を誇っており、今後は文章のラベル付けやソースコードの解釈といった用途での業務への活用が期待されている。
プロンプトテンプレートの利用
今回の検証で利用した生成AIプラットフォームにはチャットや法令検索などの機能が備わっているが、職員から最も評価が高かったのは「プロンプトテンプレートの利用」ができる機能だった。これは、業務ごとにプロンプト(指示、質問文)のテンプレートをあらかじめ用意しておき、実際のユースケースに応じて内容の一部を書き換えるだけで、指示内容の大半を生成AIが作成してくれるため、知識や経験に乏しい職員でも容易に扱える。
生成AI活用における恩恵を最も期待される業務は、PCの操作法やコードの生成だったが、実際に同業務に生成AIを活用する職員は少数派だったことも分かっている。
今回の検証には毎週約200人が参加したものの、そのうち2週続けて利用した職員は約半数だった。その点から、今回の検証期間中に生成AIを積極的に活用できた職員は少なかったことが分かる。実際、AIを活用しなかった職員の声では「業務で忙しかった」「どのような業務に使用するのが良いのか分からなかった」などを理由として挙げている。
これらの結果から、デジタル庁は生成AIが効果を発揮しやすい業務内容を把握するために、広い分野で活用していく文化を醸成することが組織に定着させるポイントだと指摘している。
検証結果から分かるAI導入時のポイント
今回扱った検証は行政分野での活用に重点を置いているが、課題解決のための着眼点はそのほかの分野でも参考になる部分が多いだろう。これから生成AIの活用を考えている企業に対して、必要な事前準備や運用における指針となる今回のデジタル庁の検証結果は、目を通しておくべきだろう。