組織改革

困難を乗り越えようとするとき「プライド」が大きな力を発揮する
~アース製薬株式会社など複数社で社外取締役を務める
ハロルド・ジョージ・メイ氏~

掲載日:2024/08/20

ハロルド・ジョージ・メイ氏

経済や景気状況といった外部環境の変化や人手不足に代表される経営資源の制約により、日本企業の多くは今、これまで以上に難しいかじ取りが求められている。日本リーバ、日本コカ・コーラなどの外資系企業でキャリアを築き、その後、プロ経営者として赤字経営のタカラトミーのV字回復を実現し、新日本プロレスの過去最高売上げ・最高利益を達成したハロルド・ジョージ・メイ氏に、日本企業が元気を取り戻すヒントをたずねた。

コカ・コーラがオフィス装飾にコストを割く理由

BP:ハロルドさんが赤字経営だったタカラトミーの社長兼CEOに就任したのは2015年。それから2年足らずで同社はV字回復を遂げました。今日はその秘訣をぜひお聞きしたいと思っています。

ハロルド・ジョージ・メイ氏(以下、ハロルド氏):当時、私が重視したポイントを一つだけ挙げるなら、それはプライド(誇り)です。残念なことに、毎日楽しく、毎日上手く行くような仕事は存在しません。仕事をする以上、壁にも突き当たるし、何をやっても上手く行かないような日にも出くわします。そうした時、私たちが「でも明日も頑張ろう」と思える拠り所になるのが、企業の一員としてのプライド、つまり企業の存在や製品・サービスが社会に果たしている意義なのです。

私がその重要性に気づかされたのは、今から15年ほど前、日本コカ・コーラでマーケティングの仕事をしていたときのことです。当時、コカ・コーラ本社の業績は長く低迷を続け、優秀な人材が社外に流出する状況が続いていました。こうした中で就任した新社長が最初に行ったのは、新しい経営方針を打ち出すことでも新製品の開発でもなく、企業のプライドを再構築することでした。

注目したいのは、コカ・コーラのプライドを言葉で説明するだけではなく、オフィス装飾を通して視覚的に伝えた点です。米国本社の受付ロビーに、コカ・コーラが販売されている国と地域を示す巨大な地図を掲げたのはその一例です。当時、私の同僚の多くはコカ・コーラを百年以上前に発売された時代遅れな製品と受け止めていました。でも実際には当時コカ・コーラが販売されていなかったのは、世界にわずか2カ国に過ぎず、国連加盟国数より多い208カ国で、1日19億杯が販売されていたのです。ちなみにその2カ国は、北朝鮮とキューバでした。

こうしたメッセージを言葉で発信しても「それはすごいね」で終わるでしょう。しかし、受付ロビーに巨大な世界地図を掲げ、コーポレートカラーの赤をオフィス装飾に効果的にあしらうことで、確実にプライドが共有されていくのです。コカ・コーラのV字回復に関してはさまざまな分析がされていますが、私は社員がプライドを共有できたことも大きな意味を持っていると感じています。

BP:オフィスデザインにこだわる日本企業は増えていますが、確かに企業のプライドという観点は希薄かもしれませんね。

ハロルド氏:企業が元気になるには、まず社員が元気になることです。一見回り道のように見えようと、そのための投資は決して無駄ではないのです。実は以前から、日本の企業文化で気になることが一つあります。それは損益計算書の「人件費」という項目です。つまり費用という認識です。費用は減らすべきものということは、ビジネスマンであれば1年生でも知っています。外資系企業の場合、「人材投資」という言葉を使うことが一般的です。人件費はコストではなく、企業活動に不可欠な投資という認識ですね。日本企業は「社員が財産」という言い方をよくします。文化の違いと言えばそれまでですが、人件費という言葉を目にするとどうしても「本当かな」と思ってしまいます。

危機は乗り越えられると信じさせることが責務

BP:タカラトミー時代はハロウィンにちなみ、社員が仮装して勤務するイベントも開催されました。

ハロルド氏:私がタカラトミーの社長に就任したのは、特別損失を計上するような状況下のことでした。だからといって社員に暗い顔をして出勤するように言いますか? そんなことは言いませんよね。みんなに元気になって欲しいと思い、考えついたのが、毎月1回、1時間だけ、みんなで楽しいことをすることでした。では10月は何がいいだろう。そうだ、ハロウィンがあるよ。そこで10月はみんなで仮装して仕事をしようとなったわけです。実は初年度は、二千数百名の社員中、仮装したのは2、30名でした。でも2年目は約半分、3年目はほぼ全員が思い思いの仮装を楽しんでいました。毎月のイベントは、原宿の有名な綿あめ屋さんをオフィスに招くなど、いろいろしましたが、おもちゃメーカーと仮装はとても相性がよかったと思いますね。

BP:日本企業の場合、職場の雰囲気づくりが苦手なようです。そもそもあまり意識していないリーダーも少なくないように思います。

ハロルド氏:困難に直面した時、現在の赤字は一時的なものに過ぎず、必ず乗り越えられると社員や部下に説明することもリーダーの重要な役割です。本当かどうかは、また別の話ですけどね。

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