SDGs
気候変動による中小企業への影響とその対策とは?
掲載日:2024/09/24
気候変動対策は企業が取り組むべき重要な課題であり、もちろん、大企業に限らず中小企業にも取り組みが求められる。そこで気候変動が企業に与える影響や、中小企業でも行える対策について、事例を踏まえて見ていく。
気候変動の現状
2024年8月に発生した台風10号は、交通機関の乱れなど日本全国に大きな影響をもたらした。イギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)の研究チームが発表した、独自の手法を用いた台風10号の分析結果によると、同台風は気候変動の影響を想定しない場合と比較して、最大風速が7.5%強くなった可能性があると指摘している。また同台風と同規模の台風の発生確率が、以前より26%増加している可能性も述べている。
気候変動は、太陽活動の変化や大規模な火山噴火などの自然現象が要因で起こりうるが、1800年代以降の気候変動については、主に化石燃料の燃焼によって発生する温室効果ガスの増加という、人為的な要因による影響の方が大きいことが明らかになっている。
温室効果ガスの排出量の増加は世界の年平均気温の上昇とつながっており、実際に産業革命前と現在の水準を比較すると、世界の平均気温は約1℃上昇している。このまま対策を行わない場合、2030年~2052年の期間で平均約1.5℃、2100年には平均約4℃まで上昇幅が拡大すると予測されており、平均気温が上昇するほど異常気象が起こる頻度も増えるとされている。
こういった状況を踏まえてパリ協定では、「世界全体の平均気温の上昇を産業革命以前の水準と比べて2℃よりも十分に低く抑える」と目標を定めた。また日本でも2020年に「カーボンニュートラル」の宣言を行い、2050年までに日本の温室効果ガスの年間排出量を、除去量や吸収量によって差し引きで実質排出量をゼロにすることを目指している。これは、SDGsの目標達成にもつながる重要な取り組みとされている。
気候変動が企業に与える影響
気候変動が起きると、第一次産業が大きな影響を受けることは容易に想像できる。既に気候変動による異常気象が原因で、農作物の不作や水産物の不漁などが発生している。一方で第二次産業以降では、気候変動による影響は見えにくいと思われているが、実際にはさまざまなところでマイナスの影響が及ぶ可能性がある。
例えば、建築関係では気候変動が起因となる異常気象や災害などによって施設の損傷が発生し、修繕費用が増加する可能性やゲリラ豪雨によって建築物が浸水被害を受ける可能性も考えられる。
さらに、平均気温が上昇傾向にあることから熱中症のリスクも高くなり、特に外での作業が多い企業はその対策にかかるコストも増大する。気候変動で大きな災害が増えると、従業員が被災する可能性や通勤できなくなることも考慮して対策を検討しなければはならない。
その他、中小企業は原材料の高騰などにより採算が取れなくなることで倒産に追い込まれるケースも考えられる。自社に直接の影響がなくても、取引先企業の倒産によって材料が安定して入荷できなくなることや、製品自体が売れなくなるという事態が生じる恐れもある。
中小企業が取るべき対策
気候変動対策は中長期で対策を講じる必要がある。個々の企業での対策はすぐに効果が出るものではないが、世界全体で対応を進めるべき状況に変わりはないため、今後は全ての企業が意識をしなければならない。
また、気候変動対策の実施が、企業成長へのチャンスとなる可能性もある。例えば積極的に気候変動対策を行っている姿勢をアピールすることで、ステークホルダーから信頼を得られるだけでなく、メディアへの掲載や国・自治体から表彰されるなど、企業の知名度向上につなげられるケースもある。また気候変動対策を行う企業であるという姿勢を示すことは、従業員のやりがいや人材採用においても前向きなイメージにつながるだろう。
そのほかにも気候変動対策に合わせて最新設備を導入することで、エネルギー消費量や光熱費の減少、そして生産効率の向上にもつながる場合が考えられる。
さらに、金融機関からの融資調達の際には、融資策への気候変動対策への取り組み状況に応じて優遇されることもある。借り手がサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPTs)を達成することを奨励する国際的な指針である「サステナビリティ・リンク・ローン」という制度があり、これは借り手のSPTsの達成状況に応じて、インセンティブやディスインセンティブが発生するローンなのだ。
企業の気候変動対策事例
気候変動対策の取り組みが評価され、環境に貢献をした企業をピックアップして2つ紹介する。
環境負荷軽減の取り組みによって売上や取引先が拡大
ある大手印刷会社は、環境負荷を抑えた印刷の推進やSDGsに積極的に取り組んでいる。これらの取り組みが評価されてジャパンSDGsアワードに入賞するなど、省エネの活用によるBCP対策やエネルギーコストの削減、取引先や売上の増加など、多くのメリットを生み出している。
光熱費削減の取り組みが紹介されて知名度が向上
業務用の鋳造用耐火物の製造販売を行うあるメーカーでは、省エネルギー対策を行って光熱費を年間約1,000万円削減した取り組みが注目を集め、環境省に脱炭素化に向けた取り組みのモデル事例として紹介されたことで、知名度向上につながった。
中長期の事業継続の視点で行う対策
気候変動対策は取り組みを始めても即効性が期待できるものではないため、中長期的な事業継続の視点を持つなど、徐々に結果を出すことを意識したい。
そのうえでカーボンニュートラルへの取り組みをうまく取り入れられれば、融資や外部からの評価を獲得することにつながり、結果的に競争力が向上することで企業価値も高まるだろう。