IoT・AI

AIはコンセンサスがとれた最適解を導くことは得意
一方で個人や企業が幸せを感じる理想像は描けない
~株式会社Project MINT代表取締役 Forbesオフィシャルコラムニスト 植山智恵氏~

掲載日:2024/10/22

植山智恵氏

今、AIは業務の領域に確実に踏み込もうとしている。それに伴う組織や働き方の変化は、多くの人が注目する事柄の一つだ。ダイバーシティに代表される日本企業が直面する課題とAIの関連について、グローバルな視点でこれからの学びのあり方を説く植山 智恵氏に聞いた。

目標を掲げる 多様性の落とし穴とは

BP:「学び」というキーワードを通し、より良い生き方や、より良い組織変革を支援する取り組みを続ける植山先生にお聞きしたいのは、私たちのキャリア形成や組織の成長という観点におけるAIの意義です。まずその前提として、我々日本人の従来の学びの問題点についてお聞きしたいと思うのですが、いかがでしょうか。

植山 智恵氏(以下、植山氏):そうですね。まずは私が考える、日本の公教育の問題点から話を始めたいと思います。ChatGPTをはじめとするAIは、コンセンサスがとれた最適解を導くことは得意です。しかし「私はどう生きるべきか」などの正解のない質問を投げかけたところで、満足できるような答えが返ってくるわけではありません。日本の公教育はこれまでAIが得意とする最適解を素早く導く能力を一元的な価値基準にします。

その一方で、それ以外の能力はないがしろにしてきました。例えば、その一つが自分を表現する能力です。欧米諸国の公教育では早い段階から、自分の要求を社会に伝える能力を養います。その背景にあるのは、私とあなたは同じではないという大前提です。同じではない以上、伝えるべきことを伝え、同様に相手の意見を傾聴することが大切になるわけですね。

欧米社会が実践する、対立を恐れずに自己を表現し、反対意見に耳を傾け、対話を通して落としどころを見つけるというプロセスも実は公教育によって支えられてきたわけです。日本人の場合、自分を表現するトレーニングがされてこなかった文化的な違いもあり、自分のニーズを伝えることによる対立は避けたいと考えることが一般的です。

この問題は、特に日本企業のダイバーシティへの対応において強く表れているように思えます。女性活躍社会の実現に向け、日本政府は女性マネージャー比率を30%に高めるという目標を打ち出していますが、それが真のダイバーシティ社会につながるかというとはなはだ疑問です。なぜなら、女性の働き方のニーズはさまざまであるはずだからです。真の多様性を目指すのであれば、本来は各人が自分の働き方のニーズを表明し、職場内での調整を経て、個人にとっても社会にとっても望ましい落としどころを見つけていくプロセスが必要になるはずです。

こうした当たり前とも思える対話や議論を経ず、一足飛びに30%という数字が出てくる理由の一つは、正解を求めることに終始し、自分の考えを伝える能力を重視しなかった日本の公教育にもあるのではないでしょうか。

BP:確かに、日本人には無駄な波風を立てたくないという意識があることは否定できません。今のお話しを聞くと、対立は決して無駄ではないというところから我々は受け入れていく必要がありそうですね。

植山氏:2010年代以降の世界は、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとったVUCA時代という言葉で表されます。社会環境やビジネス環境が大きく変わる中、教育を通して培われた、対立を恐れず、対話を通してよりよい社会や組織を目指すという能力は、欧米社会の復元力を高める上で大きな役割を果たしていると見ることができます。

ただし日本の公教育は、私が問題意識を持つようになった時代とは違い、ここ10年ほどの間に大きく変わっています。ですから今は、自分を表現することの大切さを学んだ世代を組織がどのように受け入れ、彼らの自己表現する力をどのように生かしていくかというフェーズに移行しているとも言えますね。

BP:社会環境やビジネス環境の変化にいち早く対応し、アドバンテージを得るうえでは、経営層から意識を変えていく必要がありそうですね。ここで浮かび上がるのは、幼少期から培われてきた意識は簡単に変えられるのだろうかという疑問です。

植山氏:年齢を問わず、いくつになっても人は学習を通して変わることができます。学びの一例として挙げたいのは、自分を見つめ直す取り組みです。

あまり意識することはないかもしれませんが、一人の人間の中には、さまざまな強みや弱さがあります。また自分自身の感情を分析し、奥底にある真のニーズや価値観を追求していくと、祖父母の一言や中学の同級生との会話など、意外な原体験が浮かび上がることも珍しくありません。自分の中にある、今まで意識することがなかった多様性に気づくことは、多様性を理解し、受け入れることにつながります。自分自身を再発見する取り組みは、50歳になっても60歳になって始めても、全然遅くないはずです。

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