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既存のネットワークを超える
ICTインフラ基盤構想「IOWN構想」とは

掲載日:2024/10/29

既存のネットワークを超えるICTインフラ基盤構想「IOWN構想」とは

次世代のICTインフラ基盤構想、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の実現が近づいている。NTTの発表によると、IOWN構想は2024年内に枠組みを確定させ、2030年の完全実現を目指しているという。今回はIOWN構想と今後のビジネスへの影響について解説する。

IOWNはなぜ必要とされているのか

2030年の完全実用化を目指しているIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想に対して注目が集まっている。IOWN構想とは、NTTが2019年に発表した次世代のICTインフラの基盤のコンセプトで、光通信を中心とした革新的技術を活用することで、従来のインフラの限界を超えた高速大容量通信と膨大な計算リソースを提供できる通信基盤として研究開発が進められている。

IOWNが必要とされる背景には、社会全体でのデータ伝送量・処理量が増加し続けている状況が影響している。NTTによると、2030年には世界全体でのデータセンターの消費電力が2018年比で約13倍に達するという。世界規模で省電力化やカーボンニュートラルが求められている時代において、従来型のネットワーク基盤は限界を迎えつつあると言える。そのため、省電力かつ効率的にデータを伝送・処理が可能なIOWNが注目されることになった。

IOWN構想は、主に以下の3要素によって構成される。それぞれについて詳しく説明していく。

オールフォトニクス・ネットワーク

オールフォトニクス・ネットワークとは、光(フォトニクス)による技術をネットワークや端末など全てに採用することで、省電力かつ高速、低遅延を実現する情報処理基盤である。具体的には、電気信号と光信号を組み合わせた従来型基盤の性能と比較して「電力効率を100倍に」「伝送容量を125倍に」「エンド・ツー・エンド遅延を200分の1に」という3つの目標性能を設定し、それぞれの実現のための研究が進められている。

上記のような超高性能な情報伝達を実現するために、オールフォトニクス・ネットワークにはさまざまな最先端技術が取り入れられる。その代表的な例であり、キー・テクノロジーとして期待されているのが光電融合技術だ。

例えば従来のコンピューター演算は、内部の電子部品、すなわち電気の伝送によって行われていた。電子部品の代表的な例である半導体は、集積回路を微細化し、集積度を向上させることで、性能の向上を続けてきた。しかし、近年はコンピューターの高集積化が進み、発熱量が増加したことで、かえって性能が制限される事象が起きている。そこで、配線に光通信技術を組み込むことで問題解決を図ろうという試みが光電融合技術だ。これは、ネット回線などに使用される光ファイバーの技術を従来の電子機器内の情報伝達にも応用したものである。同技術は電気と比較して発熱を抑えることができ、省電力かつ低遅延でより効率的な情報伝達が可能になる。

デジタルツインコンピューティング

デジタルツインとは、現実世界の情報をサイバー空間上に再現する技術である。NTTはこの技術を発展させ、従来のデジタルツインをはるかに超えた高精度な分析・予測を目指すデジタルツインコンピューティングを提唱している。デジタルツインは現実世界でシミュレーションが困難である事象を検証可能にする技術として注目されているが、デジタルツインコンピューティングでは、多様な産業とモノ・ヒトをサイバー空間上で高精度に再現した未来予測が可能になるという。

デジタルツインコンピューティングでは、NTTの研究機関が研究を続けてきた先端音声系技術が多数取り入れられる。例えば、人工知能によって人間とほぼ同等の性能を持った音声認識や、肉声に近い印象を与える合成音声、音声から感情や意図まで理解し分析する技術が用いられることで、デジタルツインにおいても現実で人間と接しているときのような感覚を味わうことが可能になる。

コグニティブ・ファウンデーション

コグニティブ・ファウンデーションとは、IoT機器が取得したセンサーデータや映像、音声といった多様な情報を分析し、必要な情報を適切に取り出すための基盤技術である。同技術はネットワークや端末自体についても個別に制御することにより、情報の流通を最適化することが可能となる。

従来は、情報ネットワークを構成するICTリソースがサービスや業務の内容ごとにサイロ化されており、それぞれの配置や構成を最適化することは二の次になっていた。しかし、コグニティブ・ファウンデーションであれば、これらのICTリソースの一元的な管理が可能になる。これにより、単に情報伝達のスピードが早くなるだけでなく、セキュリティの強化や、複雑なICTリソースを組み合わせた自動化実現など、副次的なメリットも存在する。

IOWNがスタンダードとなる未来

最先端技術が詰まったIOWNだが、実現すればこれまで技術的ハードルの高かった分野の発展に大きく寄与することが想定されている。

例えば、社会実装が進められている遠隔医療は、IOWNによる恩恵を大きく受けられる。具体的には遠隔手術において、オールフォトニクス・ネットワークによって低遅延かつ高セキュリティの通信によって、安全に医師の操作をリモート先へ反映させることができるようになり、デジタルツインコンピューティングを組み合わせることで正確に患者の状態を把握できるだろう。また、コグニティブ・ファウンデーションにより、これまで未統合だったさまざまな患者のデータを活用できれば、医師本人が現地で患者を診るよりも適切な判断が可能になる可能性もある。

情報通信量は今後も世界規模で増大していく見通しであるため、最新のICTインフラ基盤の構想であるIOWN構想は世界中で需要が高まる可能性が高い。グローバルスタンダードとして活用される未来も予測されるため、国際市場を視野に入れるベンダーは、今後の動向に注目しなければならないだろう。