流通・小売業
自動車だけではない!
船舶の自動操船が実現した未来とは?
掲載日:2024/12/10
自動運転と聞くと、自動車や電車をイメージする人が多いだろう。しかし自動車だけでなく、タンカーやフェリーといった船舶でも自動操船に関する研究が進められている。そこで今回は、日常生活や産業を支える海上輸送の重要性を見ていきながら、自動操船の現状や今後の展望について解説していく。
日本における海上輸送の重要性
資源を多く持たない日本において、海上輸送の重要性は極めて大きい。公益財団法人日本海事広報協会がまとめた「日本の海運 SHIPPING NOW 2024-2025」によると、日本と外国間の輸出入において海上輸送がトン数ベースの割合で99.6%を担っている。また国内の港から港へ運ぶ内航海運についても、日本の貨物輸送全体の約4割を占めており、これは自動車輸送に次ぐ高い割合を占めている。また同レポートには「日本は、『衣食住』のもととなる原材料のほとんどを海外から船で輸入しています」とも述べられており、実際に衣服の原料となる綿花は100%の割合で海外から船で輸入されているほか、原油や天然ガスなどのエネルギー類の輸入割合も100%に近い。
これらのデータからも、海上輸送は日本の生命線とも言っても過言ではないことが読み取れる。そのため自動操船が実現し、事故リスクの低減や人手不足の解消などに貢献できれば、日本の物流の安定化に寄与することが期待される。
日本の自動操船技術の動向と実現目標
国土交通省が公表している 自動運航船検討会の配布資料「自動運航船に関する技術開発の状況等」によると、同省では2016年度より自動操船機能・遠隔操船機能・自動離着桟機能(注)に関する技術の開発や実証を支援してきた。2022年2月には実証にて得られた知見を踏まえて、「自動運航船に関する安全ガイドライン」を作成している。
(注)港や桟橋に船を着ける・離れるという操縦を自動で行う機能
民間においても、日本財団が推進している無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」において、無人運航船の実証実験が進んでいる。同プロジェクトでは2020年~2022年を第1フェーズ、2023年~2026年を第2フェーズとして、避航技術や自動離着桟の改善などさまざまな技術開発に取り組んでいる。同プロジェクトでは「2040年に内航船の50%が無人運航船となること」を目標にしている。仮にこの目標が達成されると、国内だけでも年間1兆円ほどの経済効果が期待できるという。
自動操船実現に向けた課題
自動操船の実現にはさまざまな課題があるが、その一つに通信技術の問題が挙げられる。現在でも、船舶側システムと陸上側システム間の電波が一時的につながらない事態が起きている。海上で電波が不安定になると、その間の船舶の位置・状況を把握することが困難になる。これは自動操船の実現に当たって乗り越えなければならない課題である。
自動操船が実現した未来
船舶の自動操船が実現したインパクトは非常に大きい。最初にイメージしやすいのが人手不足の解消だ。例えば、先述した国内の港から港へ運ぶ内航海運では、船員の約半数が50代以上と高齢化が進んでおり、将来の担い手不足・人材不足が深刻だ。しかし自動操船の実現によって安全な航行に必要な人員を削減できれば、人手不足の解消につながる可能性は高い。さらに海難事故の原因の7~8割に上るとされるヒューマンエラーも減少し、海難事故の防止にも寄与することだろう。また、物流だけでなく有人離島と本島を結ぶ定期便の数の維持にもつながり、離島生活の質向上も期待できる。
先述した無人運航船プロジェクト「MEGURI2040」が掲げるとおり、内航船の50%が無人運航船となる未来が実現すれば、年間約1兆円の経済効果が期待できる。経済効果の波及は船舶建造や船舶修理、情報通信などさまざまな領域にまたがることが予想できる。これは自動車の自動運転と同様に、船舶の自動操船ビジネスが発展することで、下請け企業にもその恩恵が広く波及する可能性があることを意味しているため、自動操船の最新動向をチェックしながら、ビジネスチャンスに備えておくことが大切だ。