DX
量子コンピューティングによる変革がもたらすDXの推進の可能性
掲載日:2025/01/07
2025年にMicrosoft社とAtom Computing社が商用量子コンピューターの発売を予定しており、ついに量子技術の商業利用の実現に期待が高まっている。そこで量子コンピューターの概要や、活用が期待されている分野などを見ていこう。
実現が迫る商用量子コンピューター
アメリカのMicrosoft社と量子コンピューター開発企業のAtom Computing社は、2024年11月に開催された「Microsoft Ignite 2024」にて、2025年に商用の量子コンピューターを発売すると発表した。
また、Google社は2024年12月9日に新量子チップ「Willow」を発表した。同チップは2024年時点で最速のスーパーコンピューターであり、10の25乗年(100垓年)かかるとされる計算を5分で完了するという。
日本国内でも2023年に理化学研究所が中心の共同研究グループが、国産初の量子コンピューター「叡(えい)」を稼働させるなど、量子コンピューターの実用化は着実に近づいている。なお現在のところ、量子コンピューターは一般的なPCのように単体で使用するものではなく、クラウド経由で動作している。
クラウドでの量子コンピューターの実機を初めて一般公開したのはIBM社だ。こちらは最小のプランであれば無料で利用することができる。
また、AWS社は量子クラウドプラットフォーム「Amazon Braket」を一般公開している。こちらもAWSアカウントを持つユーザーは毎月最大1時間分を無料で利用可能だ。
2025年に商用の量子コンピューターを発売すると発表しているMicrosoft社も、量子クラウドプラットフォーム「Azure Quantum」を既に公開している。
上記のプラットフォームは、主に研究・検証を目的として公開されており、商業利用はまだ難しい。
従来のコンピューターと量子コンピューターの違い
古典コンピューターは情報を0か1の2通りの状態で表す「ビット」を最小単位として扱い、一度に処理する情報量にも限界がある。それに対し量子コンピューターは「量子ビット」を最小の単位として、量子力学の概念をもとに「0と1の両方を重ね合わせた状態(量子重ね合わせ)」と「二つ以上の重ね合わせた状態にある量子の相関(量子もつれ)」も計算することで、計算速度、処理能力ともに古典コンピューターから格段に向上している。
また、量子コンピューターの動作には、大きく分けて「量子ゲート方式」と「量子アニーリング方式」の二つの方式がある。一般的に量子コンピューターと言われるものは主に「量子ゲート方式」を指すことが多い。
量子ゲート方式は、量子重ね合わせと量子もつれを利用する方式で、厳密にはさらに「電子誤り耐性あり量子コンピューター(FTQC:Fault-Tolerant Quantum Computer)」と「ノイズあり小中規模量子コンピューター(NISQ:Noisy Intermediate-Scale Quantum)」の2種類に分類される。
同方式には扱える量子ビット数の少なさや、計算中に生じる誤りが訂正できないなどの技術的な課題がある。これは量子ビットが外部環境の影響を受け、計算中に情報が変化する「量子エラー」が発生するためだ。2023年時点では、これらの問題を解消して実用化するまでには10年以上かかるとされていた。
しかし、先述したGoogle社の「Willow」は量子ビット数が増えるほどエラー率が指数関数的に減少すると報道されており、今後は技術の進展がみられるかもしれない。
量子アニーリング方式(量子焼きなまし法)は、複数の選択肢の中から最適解や組み合わせを見つけるのに特化した方式であり、用途が限定される分こちらの方が開発や実用化に向けて進んでいると言われている。
量子コンピューターで実現するDX領域
現在は、DXの推進に古典コンピューターが用いられているが、今後量子コンピューターへの置き換えが進んだ場合、どのような分野で活用が期待されるのだろうか。
金融領域
金融領域では日々変動する金融商品のリスクやリターンなどを計算して数値化する金融工学の分野で量子コンピューターの実証実験が進んでいる。
古典コンピューターでは即時実行が難しい点が課題だったが、量子コンピューターの処理能力を活用することで、投資先の最適なポートフォリオの提示や精度の高いリスク評価を短時間で行えるようになることが期待されている。
製造領域
製造領域では、量子コンピューターの実用化によって複雑なモデリングや計算が行えるようになることで、新素材の開発や製造プロセスの最適化などに貢献することが見込まれている。
特に新素材の開発では、素粒子レベルのモデリング能力が劇的に向上することで、より高い重量比強度を持った素材や環境負荷の少ない物質の開発などが実現すると言われている。
量子コンピューターの実用化は近い
現状の量子コンピューターは実証段階にあるものの、一部分野においては近い将来に量子コンピューターの実用化が見込まれている。
とはいえ、まだ量子エラーの問題など解決すべき課題もあり、現在のスーパーコンピューターが量子コンピューターに置き換えられるまでには、まだ少し時間がかかるのかもしれない。