製造業

製造業の課題を突破する注目の新技術
デジタルツインとは

掲載日:2025/01/14

製造業の課題を突破する注目の新技術デジタルツインとは

コロナ禍前後から製造業界では、「デジタルツイン」というキーワードに対する注目が高まっている。円安や人手不足といった慢性的な課題に対し、新たな打開策を求められていることがその要因の一つとして挙げられる。実際に製造業界において、デジタルツインはどのように活用されているのだろうか。

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デジタルツインの概要と利点

デジタルツインとは、現実および物理空間の情報を集約して、仮想のデジタル空間に再現する技術を指す言葉だ。デジタルツイン上では非常に高度な再現をすることで、現実では危険が伴う実験のシミュレーションの実施や、その複雑さから把握が困難なモニタリングを詳細に観測することなどが可能である。

デジタルツインの高い再現性は、製造業の業務効率化にも役立てることが可能だ。今日の製造業界が抱える課題とデジタルツインを活用した解決方法について以下で紹介する。

数十年先の老朽化状況をシミュレーション

製造業においては、工場などの設備管理に対する負担が大きい。特に設備の老朽化や故障などは避けることができず、定期的な点検や機器のリプレースを行うことで、いつ発生するか分からない故障に備えなければいけない。

そこで効果を発揮するのが、デジタルツインを活用した劣化シミュレーションだ。最新の機器の状態を反映させた精度の高いシミュレーションを行うことで、問題の発生時期を高い精度で予測することができる。特に長期的な予測や災害発生時の影響など、人間には再現が困難な不確実性の高い状況を想定したシミュレーションについては、積極的にデジタルツインを活用したい。

短期間での試作品製造を支援

開発期間の延長はコスト増大に直結するため、この期間を抑制するためにも適切な仮説から精密な試作品を作ることは重要だ。

デジタルツインは、精度の高い試作品作成にも大きく貢献する技術である。IoT機器などから得た膨大なデータを組み合わせて活用することにより、従来以上に最適な試作品のパラメーターを設定することができるためだ。

また、シミュレーションテストもデジタルツイン上で実施することにより、環境構築の手間を省くことができる。従来はテストの結果が出るたびに試作品の作り直しが発生したため時間のロスも大きかったが、デジタルツイン上で実施することで、現実で製造を行う前に改良点のデータを反映させることが可能だ。その結果、開発期間もコストも削減できる。

デジタルツインの活用事例

既に製造業の一部企業では、デジタルツインを導入したことで、業務効率化やコスト削減につなげている事例も存在する。

例えば自動車業界のとある企業では、デジタルツインを導入することで従業員の労働環境を大きく改善することができたという。同社は以前から、生産ラインや工場の環境を3Dモデルなどでシミュレーションする取り組みを進めていたが、この方式では厳密に設備の配置や製品の重さ・摩擦などまで再現することは困難だった。

そこで、デジタルツインによる正確なシミュレーションを実施したところ、それまでは検知できなかった製造用機械のわずかな誤差を検知することが可能となり、機械調整に費やしていた人的負担を大きく削減できている。

また、化学系のとある企業では、デジタルツインのシミュレーションによってロスを最小限に抑えた生産管理システムを構築し、工場のスマートファクトリー化を達成。生産効率の向上を実現しただけでなく、人材育成や安全性の底上げなどの効果も得られたという。

同社では工場内の設備をデジタルツイン上で再現し、それぞれにAR(拡張現実)情報を割り振ることで、作業用機械にスマホやタブレットのカメラを向けた際、その操作方法などをAR情報として表示することが可能になった。これにより現場に不慣れな従業員でも簡単に作業工程を把握することが可能になり、作業時間の短縮を実現した。

これまで製造業においては現場・現物・現実の三現主義を重視する風潮があった。今後もその重要性は変わらないが、作業の効率化と品質向上を両立させるデジタルツインには、現場で課題を抱えている製造業の経営者ほど、目を向ける価値はありそうだ。