官公庁・文教
政府や自治体とIT企業の協力で進む
「Govtech」の事例を紹介
掲載日:2025/01/21

世界有数のデジタル先進国として知られている欧州のエストニアは行政サービスの99%をオンライン手続きで行える。同国がここまで高度に電子化できた背景には、Govtechと呼ばれる取り組みが影響している。
時代が求める行政のデジタル化
Govtech(ガブテック)とはGovernment(政府)とTechnology(技術)を合わせた造語であり、その名のとおり行政が民間企業のテクノロジーを活用して作業効率化やサービス拡充を図ることを指す。日本政府もGovtechの推進に力を入れており、特に所管官庁であるデジタル庁が主体となって、イベントの開催などで周知と浸透を広げる活動を進めている。
では、Govtechの具体的な取り組みを見ていこう。第一にこれまで窓口で対応していた行政業務のDXが挙げられる。従来は市役所などで紙書類への手書きが不可欠だった手続きをデジタル化することで、職員と利用者双方にとって負担が大きく軽減することだろう。
また、選挙や教育といった行政が担当する役割のデジタル化についても、負担軽減はもとより、サービス自体の形式を大きく変えることが可能になる。さらにネット選挙やネット教育が実現すれば、従来のように現地で動員が必要だった人手を大きく抑えることが可能になるため、人材不足対策やコストカットの面でも非常に期待がかかる取り組みだ。
国内のGovtech先行事例
Govtechへの取り組みは既に始まっており、全国各地の自治体から活用事例が報告されている。具体的なケースについて以下で紹介する。
茨城県つくば市
茨城県つくば市では、「つくばSociety5.0社会実装トライアル支援事業」と題し、Society5.0社会(政府が将来的な実現を目標としている超スマート社会)に向けた多数の実証実験を実施している。中でも特に注目されているのが、国政選挙や地方選挙などでの活用を目標としたインターネット投票システムだ。同システムではマイナンバーカードやブロックチェーン技術による高い認証性能を担保することで、投票の秘密を十分に守ることができるセキュリティ性を実現しているという。
同システムは一般の地元住民を対象とした模擬住民投票や地元学校の生徒会選挙などで利用された。今後は公職選挙での活用を見据え、その他の自治体でも展開させる取り組みが行われている。
兵庫県宝塚市
兵庫県宝塚市では、市役所内に「お悔やみ窓口」を設け、住民が亡くなった際に遺族が行う手続きをワンストップで完了できるシステムを構築した。この窓口では、遺族がタブレットを使用して必要事項を入力するだけで、部署をまたいだ複数の手続き用書類を発行することができる。
従来の手続きにおいては、精神的に負担を強いられる中で、市役所の各部署で複雑な書類手続きが必要だった。しかしデジタルを活用することで、この手続きをワンストップで行えるシステムに刷新した。これにより遺族が行う手続きの負担を軽減させることに加え、書類に記入する情報の抜け漏れや誤りを細かくチェックすることも可能になったという。
岡山県岡山市
岡山県岡山市では、農用地台帳のDXが進んでいる。同市では、農地を太陽光発電所や駐車場などの別用途で活用する農地転用が盛んであるが、所有する土地が法令上の農地に該当するかを確認するため、担当部署への問い合わせが非常に多いという。
この確認を行うには、農用地台帳のみならず登記簿をはじめとした各種書類の確認が必要であるため、問い合わせへの回答に数日を要する。この待ち時間を短縮するため、農地転用に必要なデータをWeb上に集約するシステムの構築を進めている。
同市は登記簿の履歴を可能な限り追跡し、現在登録されている農用地台帳と照合して確認を行っている。今後は農業委員会の持つ農家台帳も同様に照合し、スムーズかつ広範囲の情報を確認できるシステムの構築に向け取り組みを進めている。
Society5.0の実現に不可欠なGovtech

先行事例として紹介した自治体は、いずれも民間企業と協力することでGovtechを実現している。特に地方においては地元のIT企業が参画している例が多い。すなわちGovtechに取り組む自治体は、地元企業にとってもメリットがある狙い目の協業相手と言えるだろう。政府がSociety5.0を目指す中、今後Govtechはどの自治体でも当たり前の取り組みとなることことが予測される。地方のベンダーとしては、このチャンスを逃すわけにはいかない。