IoT・AI
実現すればSFの世界が実現する?
「エンボディドAI」について解説
掲載日:2025/01/21

「エンボディドAI」とは身体性を持たせたAIのことだ。生成AIとは異なり、人型ロボットのような現実世界に存在するAIである。今回は、SF映画のような世界を実現するエンボディドAIについて、基本情報や最新動向などを紹介する。
エンボディドAIとは
昨今多くの人が利用しているChatGPTやGeminiなどの生成AIは、インターネット空間内に存在している。一方でエンボディドAIは、私たちと同じ現実世界に存在する、物理的な身体性を有するAIのことだ。人型ロボットを想像すると分かりやすいだろう。
実世界に存在するエンボディドAIを搭載する機械は、人間の指示に従い、例えば小売店舗における商品の仕分け・品出しや家事などの物理的な作業を実行することができる。
エンボディドAIがもたらす影響
先述のとおり、エンボディドAIを搭載した機器は、物理的な作業が可能である。そのため、例えば小売や物流現場における業務の自動化や、高所での保守点検・伐採作業といった危険な業務において活躍することが期待される。また、医療・介護業界や建設業など、労働力不足が深刻な業界では、エンボディドAI導入により人手不足の改善にも貢献できるだろう。
エンボディドAI開発の現状
インターネット上でコンテンツを生み出す生成AIと比べると、エンボディドAIの技術はまだ発展途上ではあるが、その活用分野は少しずつ拡大している。
例えば、イーロン・マスク氏が率いるテスラ・モーターズ社では2023年に新型の二足歩行ロボット「Optimus - Gen 2」を発表している。YouTube上で公開されているデモ動画では、音楽に合わせた踊りや、卵を割らずにつまんで置く繊細な動きなど、人間に近い動きを行うロボットの動作が披露されている。
中国企業でも人型ロボットへの投資が加速している。2024年8月に北京で開催された「2024世界ロボット大会」では、27種類もの人型ロボットが公開。同大会では転倒しても自力で起き上がれるロボットや料理ロボットなど、多様な動きに対応したロボットが展示されている。
日本企業においても、2024年6月には東芝欧州社のケンブリッジ研究所がエンボディドAIの実現に向け、今後5年間で当時のレートにおける約30億円を投資することを発表。2027年に最初の産業用プロトタイプを発表する予定だという。このように世界各国でエンボディドAI開発の動きが出始めている。
今後の発展が期待されるエンボディドAI

エンボディドAIの研究はまだまだ始まったばかりであるため、今後の動向は読みづらいのが実情だ。しかし、エンボディドAIがAI技術の発展に大きな意味を持つ可能性に言及する有識者もいる。この主張は、先述したケンブリッジ研究所や中国の世界ロボット大会などの最新動向からもうなずけるだろう。
一方で、エンボディドAIには倫理的な問題があることも無視できない。エンボディドAIが運転する車で事故が起きた場合、責任は誰が取るのか。身体介助など相手と直接接する機会が多い介護や看護などの現場では、エンボディドAIが相手を傷つけてしまう可能性も否定できない。
そのほか、エンボディドAIの普及により失業率が上がるリスクも指摘されている。ただこの懸念点については、車が発明されたことで馬車を操作する御者(ぎょしゃ)という職種は淘汰(とうた)されたものの、タクシードライバーという新たな職種が生まれたように、エンボディドAIの普及が新たな仕事を生み出す可能性は十分考えられるだろう。
ChatGPTの登場で生成AIが一気に普及したように、ある特定のエンボディドAIを搭載した製品によって、エンボディドAIブームが起こるとも限らない。いずれ来るかもしれないエンボディドAIブームを見据え、折に触れて情報収集をしておきたい。