クラウド
クラウド戦略を変える「CCoE」の力
掲載日:2025/01/21

DXで大切な要素となる、オンプレミスからクラウドへの移行。しかしクラウドに対する知識や理解不足から、クラウド化が順調に進まないケースも見られる。CCoEはクラウド活用を組織的に最適化することで、ボトルネックを解消し、クラウド化へとつなげる仕組みだ。CCoEを導入する意義やその役割を事例とともに見ていこう。
CCoEの必要性
CCoEとはCloud Center of Excellenceの略で、別名「クラウドCoE」とも呼ばれる、戦略的にクラウド化を進めていくための部署の垣根を超えた全社横断型の組織である。
そもそもCoE(Center of Excellence)とは、組織横断的な取り組みを進めるために人材やノウハウを一つの拠点に集約し、組織化するものだ。1950年代にスタンフォード大学が卒業生の東海岸流出を防ぐために、全米トップレベルの研究者やテクノロジー企業・研究者を誘致して行った大学改革がその原点とされる。
つまりCCoEは、クラウド活用のためのCoEということになる。
CCoEをはじめとしたクラウド戦略は、オンプレミスからクラウドに移行することが目的ではないが、DXを推進するうえではクラウドの利用が大切な鍵になってくる。
DXはいまだにデジタル化やシステム導入と同義として捉えられることも多いが、DXの定義は総務省「令和3年版 情報通信白書」には以下のように記載されている。

DXの最終目的は、新しい価値を創出し、競争優位性を確立することにある。また、クラウド化を進めることは、システムの導入・運用コストの削減やIT担当者の負担軽減、システム構築の迅速化を促す。その結果、浮いたコストやリソースを企業の新たな価値創造に利用できるため、会社全体の利益につながる。
CCoEの役割
クラウド活用のための課題として、最適なサービスを検討すること、自由度と統制のバランスを取ること、進化するクラウドサービスの技術に対応していくことなどがある。
最新の技術を取り入れ、バランスよくクラウド活用を進めるには、CCoEはIT企画部門、IT開発部門、IT運用部門、コンプライアンス部門、事業部門など、多くのステークホルダーで構成することが望ましい。
CCoEの成功事例では、熱意のあるリーダーシップをもつ中心人物がいることや、経営層の理解を得ること、内製化とアウトソーシングのポリシーがそれぞれ明確であるということが挙げられる。精神論のようではあるが、CCoEに向いている人物像は、会社や組織をより良くしたいという高い志を持ち、利他的に考えられ、変化を楽しめる心構えを持てることが大切だ。
CCoEのスコープは、会社ごとに必要とするものが異なるが、AWSは以下の要素を例に挙げている。この中から各企業の事業目標や戦略を踏まえて、CCoEをどの分野にどの程度入れていくのかを検討していくことが重要だ。

CCoEの実例
既にCCoEを実現した企業の例を見ていこう。
印刷業界
印刷業界の大手企業グループでは、2018年に全体のクラウド利活用推進の中心的存在としてCCoEが組織化された。
主な役割は、「セキュリティ・ガバナンス確立のためのガイドライン策定」「セキュリティや運用管理、業務機能の共通サービス開発」「内製化したオリジナル研修やハッカソンを通じた人材育成」「クラウド利活用プロジェクトへの技術支援」だ。またCCoEメンバーは、CCoE兼任またはCCoE専任者で構成されており、多様なクラウドの効果的な運用などを実現した。
金融業界
日本の大手金融グループ会社のある企業は、AWSの社内展開を推進してきたが、社内でのクラウドの理解不足があり停滞していたという。この状況を打破するために、2018年に、ユーザー部門を含めた関係各所から人を集め、CCoEを立ち上げた。AWS利用のために必要な課題を、「パブリッククラウドを知る」「社内ルールを整備する」「共通機能を整備する」と定め、スモールスタートから徐々に拡大している。
自動車業界
ある大手自動車メーカーでは「モビリティカンパニーへのフルモデルチェンジ」「デジタル化」の取り組みが加速する一方、クラウドやソフト開発に不慣れなスタッフも多かった。
そこで開発者の業務負担を軽減する取り組みを「DevEx (Developer Experience) カイゼン」と称し、それを目的に2022年CCoEを設立。取り組み範囲は、「プラットフォーム開発・運用」「プロジェクト支援」「クラウド人材育成」「コミュニティ形成・運用」としている。
CCoEはスモールスタートから始める

多くのメンバーが協力し、豊かな知見を結集できる状態が理想ではあるが、まずは人材がそろっていなくても活動を始めることを推奨する。クラウドは次々と新技術が加わるため、それぞれの知識を持つ人を集めるのが困難になるためである。
ただし、人を集める際に注意したいのは利害関係者を広く網羅し、クラウドやIT専門家だけに人材が偏らないようにすることだ。セキュリティ管理には、マニュアルやガイドラインのみならず、セキュリティツールを導入することも視野に入れると良いだろう。
クラウドに関する業務は導入すれば終わりということはない。時間とコストをかけてCCoEを構築した後も、クラウドのアップデート要員、セキュリティ管理要員として存続させることも考慮しておきたい。