開発

柔軟かつスピーディーな開発手法
「アジャイル開発」はなぜ必要とされるのか

掲載日:2025/01/28

柔軟かつスピーディーな開発手法「アジャイル開発」はなぜ必要とされるのか

近年、アジャイル開発と呼ばれる新しい開発方式に注目が集まっている。アジャイルとは「素早い」という意味であり、その名のとおり規模の小さい開発工程を繰り返す方式だ。従来型の「ウォーターフォール開発」の課題を解決し、新たな価値創造の手段として期待されるこの方式について解説する。

アジャイル開発とウォーターフォール開発の比較

システムやソフトウェアにおいて、小規模な実装とテストを繰り返すことで開発を進める方式を「アジャイル開発」と呼ぶ。

この方式では、開発期間中に問題が発生した場合、要件を設定し直すことができるため、急な仕様変更に対して柔軟な対応が可能な点が大きなメリットだ。また、リアルタイムでの情報共有が求められるため、少人数による開発にも適している。

このアジャイル開発に対し、入念な計画を立て、発生するニーズを事前に予測してから開発に取り組む方式を「ウォーターフォール開発」と呼ぶ。

この方式のメリットは、予算と期間が事前に定められているため、確実性の高い開発が可能な点だ。事前に細やかな要件定義が求められるものの、目標が明確なため、完成形が当初の予定から外れる可能性が低い。経験の浅いエンジニアに適している手法と言える。

一方で同手法は、一度問題が発生すると、開発途中での仕様変更が難しいというデメリットがある。また、予定どおりに開発が進まなかった場合には、再度計画の立て直しと予算の確保が求められる。その結果、開発期間が長期化しやすく、コストの増大が懸念されるほか、リアルタイムで変化する市場のニーズに応えることも難しい。

アジャイル開発に注目が集まる理由とは

今後、アジャイル開発はますます必要とされるだろう。

開発支援ツールを提供するある企業は、各企業のソフトウェア開発における責任者を対象にソフトウェアテストにおける悩みについて実態調査を行った。

その結果、54.8%が「テストに時間がかかり開発期間が長期化しがち」の回答割合が最多だった。以降は53.8%で「開発コスト・テストにかかるコストが肥大化している」、51.9%で「リリース後に不具合が発見される」という回答結果になっている。

これらの悩みはいずれも前述したウォーターフォール開発のデメリットと重なる要素であり、アジャイル開発への切り替えが望ましい開発環境と言える。

また、独立行政法人である情報処理推進機構が2020年に発表した資料によると、内閣府が目指す超スマート社会「Society5.0」の実現にはアジャイル開発が重要だと指摘している。同資料では、アジャイル開発はソフトウェアなどの開発だけでなく、ビジネス一般における価値創造の手法として重要であると述べられている。

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アジャイル開発の導入事例を紹介

アジャイル開発を取り入れた事例は多く報告されている。

自治体での事例

とある地方自治体では役所での窓口業務をDXするにあたり、アジャイル開発を導入。高齢者や外国籍の方などからさまざまな要望があった際にも、柔軟に対応することが可能になった。

同事例では自治体職員が2週間単位で利用者の反応を調査し、その内容に基づいた修正を行うというプロセスを計12回繰り返すことで、窓口対応用のシステムを完成させた。完成したシステムは、約80%の住人から「便利で使いやすい」という評価を得たほか、申請データを利用した自動入力システムによって業務時間短縮の効果もみられたという。

物流業界での事例

物流ソリューションの開発を手掛けるある企業は、アジャイル開発を導入することでトラック管理と配車マッチングという2種類の異なるサービスの開発を要件定義からリリースまで約8カ月間で完了することに成功している。またベンダーを除くと、同社のサービスの開発に携わったのは2人だけだという。

同社にとってどちらのサービスの開発も新規分野への挑戦だったが、ゴールイメージに対して、開発初期の段階で実際に動くプロトタイプを確認できたことで、細かな仕様を調整する段階にスピーディーに移行できた点で、短期間でイメージどおりの完成形まで進めるのに効果的だったと振り返っている。

アジャイル開発は、リアルタイムでの対応が求められるため、十分な知識を有したベンダーの介入が不可欠となる可能性が高い。豊富なコネクションや経験も必要になるだろう。