ネットワーク
近未来のネットワーク⁉
HAPSサービスの概要と今後の課題を解説
掲載日:2025/02/25

HAPSサービスは、成層圏に配置した無人航空機や気球を活用し、地上と衛星の間で通信を提供するシステムのことである。HAPSの仕組みやメリットをはじめ、どのような利活用の可能性があるのか、また今後の課題について見ていこう。
HAPSサービスの仕組み
地球の上空で、人工衛星をはじめとした飛行体を用いて構築する通信ネットワークを「NTN(非地上系ネットワーク)」という。その一つがHAPS(空飛ぶ基地局)だ。HAPSが実用化されると、日常でも携帯電話の通信に利用している4G、5Gといった地上系ネットワークが届かない地域でも、通信が行えるようになる。
HAPS(High-Altitude Platform Station)は、地上から18~25kmの偏西風や大気の影響が少ない、成層圏に機体を飛行させ、通信やリモートセンシング(遠隔探査)などを実現するネットワークシステムである。日本語では成層圏プラットフォームとも呼ばれている。
通信衛星は、高度3万6,000kmの静止軌道を周回するGEO衛星と、高度2,000km~3万6,000kmまでの中軌道を周回するMEO衛星、高度2,000kmまでの低軌道を周回するLEOの三つに分類されている。
一般的に高度が上がるほど地上のカバー範囲は広くなるが、距離が遠い分遅延が生じやすい。反対に高度が低ければ地上との通信速度は上がるが、カバー範囲は狭くなる。しかし、HAPSの高度は約20kmと通信衛星の中ではかなりの低軌道にもかかわらず、GEOよりも通信遅延が起こりにくく、LEOよりカバー範囲が広いというメリットがある。

HAPSには、基地局機能を搭載する無人航空機(HAPS機)が用いられる。より高い高度を飛行する通信衛星は耐用年数が10年とされ、宇宙空間でのメンテナンスや最新技術の導入が困難なことが課題だった。
しかし、HAPSに用いられる無人航空機は、ロケットで打ち上げる人工衛星と異なり、飛行を続ける「航空機」だ。実証実験では連続飛行が時速100km前後で約2カ月飛行が可能だった。つまり数カ月に一度は地上に降りてくるため、その都度メンテナンスや改良を行うことで長期運用が可能となる。
期待される利活用シーン
HAPSは、機体と地上の基地局間の通信、HAPS機とスマートフォン・IoTデバイスなどとの直接接続が想定されている。
HAPSの通信では地上基地局と同じ4Gや5Gの電波を利用するため、普段使用しているスマートフォンやタブレットなどでの通信が可能なほか、IoT機器の導入範囲も広がることが期待されている。また、ドローンサービスも上空からの安定した通信で、ますます活用の場面が広がっていきそうだ。
震災や台風などの災害発生時は、地上の基地局が被害を受け、通信が途絶えてしまうケースも少なくない。しかし、HAPSが実用化されると、地上の通信設備の機能が停止しても、HAPS経由で安定した通信が供給されるようになる。
Starlinkとの違いは?
NTN(非地上系ネットワーク)では、スペースX社のStarlinkが既に世界中でブロードバンドサービスを提供している。Starlinkも上空から通信を提供することに変わりはないが、高度約550kmを数千基の衛星が飛び続けて地上と通信をするシステムのため、多くの衛星を常に運用させるコストがかかり、収益化するのが困難となっている。
それに対してHAPSは、必要な場所にHAPS機を飛ばすと一機で広範囲をカバーできるので、費用対効果も高いとされている。
実用化に向けた今後の課題

現在、国内企業では以下で紹介する二社がHAPSの実用化に向けて開発を行っている。アメリカのとある企業でも2020年7月にケニアで商用サービスを開始したが、2021年に撤退している。
海外企業ではその他にもアメリカのAT&T社やドイツのドイツテレコム社など通信事業者を中心にHAPSによるサービス提供を検討しているが、2025年現在、実用化に取り組んでいる日本の二社が世界のHAPSサービスをリードしている状況だ。
ソフトバンク社
2017年からHAPS事業を開始し、HAPSモバイル株式会社を設立。2020年には成層圏での飛行とLTE通信試験に成功している。また、2021年にはHAPSの特許を約200件取得した。
HAPS機は「Sunglider(サングライダー)」と呼ばれる大型無人航空機だ。翼長78mの機体にソーラーパネルを搭載している。世界で初めて自律型航空式のHAPSで成層圏からLTE通信に成功している。今後はHAPSの開発を進めると同時に、グローバルでの事業展開も目指している。
Space Compass
Space Compass社は日本発の新たな宇宙インフラ「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」事業に挑戦すべく2022年に設立された、NTTとスカパーJSATの合弁会社だ。
GEO経由で大容量データを地上に高速伝送する「宇宙データセンタ事業」とHAPSを用いた災害時の安定した通信の提供や、離島などでの通信サービスを提供する低遅延の通信サービス「宇宙RAN事業」の開発を進めている。同社は2026年中の実用化を目指しているが、具体的なスケジュールは明らかにされていない。
HAPSの実用化スケジュールが不透明な理由は、各国の法制度をクリアにするのに多大な時間と手間がかかり、十分な事業モデルが見いだせなかったためとしている。
またHAPS機が滞空する高度20km付近は、風の影響が少ないとはいえ、全くの無風ではなく、想定よりも揺れが生じることも分かっている。こういった技術的な問題をどうクリアしていくのか。膨大にかかる研究・開発費をどう回収し、収益を上げていくのかなども、2026年の実用化までに解決していく必要があるだろう。
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