セキュリティ

クラウド活用のスマートな選択肢
複数のサービスを一体で運用する「クラウドスマート」の利点と脅威

掲載日:2025/02/25

クラウド活用のスマートな選択肢 複数のサービスを一体で運用する「クラウドスマート」の利点と脅威

「クラウドファースト(クラウドの優先利用)」から「クラウドスマート(クラウドの最適な利用)」へ。デジタル庁がクラウド技術の導入指針を刷新し、民間企業でもより柔軟で効率の良いクラウド環境の構築が推奨される中、DX推進やセキュリティ対策を踏まえたクラウドスマートの選択肢として有力な二つのクラウド環境について整理しておこう。

ハイブリッドクラウドとマルチクラウドの違い

クラウドスマートを実現する環境として注目されているのが、ハイブリッドクラウドとマルチクラウドだ。双方とも、自社の目的や業務の特性に合わせて複数のクラウドサービスを併用する「いいとこ取り」のクラウド環境である。

ハイブリッドクラウド

ハイブリッドクラウドとは、物理サーバーとクラウド、パブリッククラウドとプライベートクラウドなど複数のサービスを連携して活用することで、単一システムとして使用する実装モデルのことだ。業務や情報の性質による分担に主眼を置く活用方法であり、パブリッククラウドを接続していれば急な容量増加への対応も容易になるほか、それぞれのサーバーやクラウドに負荷を分散することで、安定したデータ処理を実現できる。今後、AI活用によって膨大なデータをリアルタイムで扱う場面が出てくれば、ハイブリッドクラウドの活用は企業競争力を上げる一つの手段となるだろう。

マルチクラウド

マルチクラウドとは、異なるベンダーのクラウドを接続させずに、独立したサービスとして併用するクラウド環境のこと。複数のパブリッククラウドを利用するケースやパブリッククラウドとプライベートクラウドを併用するケースなど、独自の運用形態にカスタマイズできるのが最大の特長だ。また特定のベンダーに依存しないため、その他のベンダーへの乗り換えが困難になる「ベンダーロックイン」も回避できる。

同方式は自社でサーバーを持たない分、初期費用を安く抑えることができるが、サービスの利用料は個別に発生するため、結果的に運用コストが高くなる可能性がある。また、それぞれのクラウドサービスで異なるシステムを覚え、セキュリティ対策としてユーザーの認証情報を変える必要があるなど、システム担当者の運用負荷が増えることもデメリットと言える。

日本企業における活用事例

国内企業でも、業界を問わず活用事例が増えている。

ハイブリッドクラウド:大手自動車メーカー

大手自動車メーカーのある企業では、国内外にある拠点から集まる製造データを一元管理し、稼働状況や生産性を可視化することで、リアルタイムで生産プロセスの最適化を実現。サプライチェーンの管理や迅速な意思決定においても効果を発揮した。AIによる自動運転技術の開発にも活用されており、同社の車両から収集した膨大なデータをクラウド上で分析し、AI予測に役立てることで、より高度な運転システムの構築と車両の安全性向上につなげている。

マルチクラウド:自治体

ある自治体では既存システムの老朽化によるメンテナンスコストの増大や、災害時のデータ保護や迅速な復旧が難しいといった課題の解決に加え、ITの活用で住民とのコミュニケーション活性化を目指してマルチクラウドを導入。効率化とセキュリティ、パフォーマンスのバランスをとる「クラウドスマート」を意識した最適なクラウドサービスを選択し、自治体DXを大きく前進させた。

求められるセキュリティ対策

ハイブリッド戦略を進める場合は、パブリッククラウドを活用しながら、機密性の高いデータのみ自社のプライベートクラウドや物理サーバーへ保管するなど、セキュリティリスクへの対応を考慮した環境を構築すべきだ。そして、単一システムとして運用するため、いずれかの環境で障害が発生した場合に業務停止のリスクが高まることにも注意しておく必要がある。障害の原因の切り分けが複雑になることを考えれば、各環境に詳しい専任担当者を配置することも対策の一つとなるだろう。

BCP(事業継続計画)やDR(災害復旧)対策に効果的なマルチクラウドを検討する際は、セキュリティの強度を統一することができないため、人的ミスなどによる情報漏えいや不正アクセスにも注意する必要がある。セキュリティホールが生まれるリスクがある場合や自社のポリシーに適していない場合は、ハイブリッドクラウド戦略も検討すべきだ。

企業のデータを保管するクラウドの導入は、明確な目的を設定し、セキュリティに対する意識を高めて運用することが重要だ。クライアントの課題とニーズを抽出し、より安全で効率的なクラウド環境を構築することが、総合的な「クラウドスマート」の提案につながるだろう。