IoT・AI
効率的なリアルデータ処理が可能!
ニューロモルフィックコンピューティング
掲載日:2025/03/11

「ニューロモルフィックコンピューティング」とは人間の脳の働きに着想を得て設計されたコンピューティング技術のことだ。同手法は脳の神経細胞であるニューロンとシナプスの働きを模倣することで、省電力ながら高速処理を実現できるため、将来のAIを支える基盤になると注目されている。
ニューロモルフィックコンピューティングとは?
ニューロモルフィックコンピューティング(Neuromorphic computing)の歴史は、アメリカの計算機科学者カーバー・アンドレス・ミード氏が1980年代後半に提唱した概念から始まる。最初は人間の脳や神経系の構造や動作を模して設計された電子アナログ回路を搭載する超大規模集積(VLSI)システムを用いて開発されていた。近年ではアナログ、デジタル、アナログ&デジタル混載VLSIや、ソフトウェアシステムなどにも応用されている。
ニューロモルフィックコンピューティングの仕組み
人間の脳は、神経細胞であるニューロン同士の電気信号のやりとりを通じて情報の処理を行っている。目や耳などからの情報が一定値を超えると、発火と呼ばれる電気信号がニューロンから発信され、シナプスと呼ばれる接合部を経由することで、他のニューロンにも情報が伝達されていく。この発火した電気信号をスパイクと呼ぶ。
こうした脳のスパイク発火の仕組みを、ハードウェア実装に活用したのが「ニューロモルフィックコンピューティング」だ。Spiking Neural Network(SNN)と呼ばれる技術も同じ考え方に基づいている。
従来のコンピューターはCPU、メモリー、入出力装置から構成され、メモリーに格納されている情報をCPUが一つずつ取り出して実行する。CPUの処理速度が向上しても、メモリーからの読み込み速度が追いつかない限りコンピューターの性能向上にはつながらない。なお最近はCPUとは別にNPUと呼ばれるAI処理に特化したプロセッサーを搭載することで、処理性能の向上や低消費電力を実現しているコンピューターも登場している。
それでも、人間同様に複数の感覚情報を同時に処理することはいまだ実現していない。このような処理は従来のコンピューターには難しいため、人間の脳の情報伝達の仕組みを模したニューロモルフィックコンピューティングで高速化、並行処理を実現しようとしているわけだ。
今後はAIやIoTへの活用に注目
ノートPCが1時間あたり約60〜80Wで動作するのに対し、人間の脳はわずか20Wといわれている。そのため、人間の脳を模したニューロモルフィックコンピューティングは、従来のコンピューターと比較して消費電力を大幅に抑えられることが期待されている。
特に膨大なデータを処理する生成AIや、リアルタイムの処理が必要なIoTには、ニューロモルフィックコンピューティングの処理速度や超低消費電力は不可欠な技術になるだろう。
TDKの超省電力技術
電子部品メーカーのTDK社は現在開発する「スピンメモリスタ」を用いたニューロモルフィックデバイスが実現すると、従来のデバイスに比べて100倍以上の省電力効果が期待できるという。
同社が培った、HDDヘッドや磁気センサーでの磁性の技術を生かし、新しいAIデバイスの実現を目指している。
九州工業大学の研究
九州工業大学ではニューロモルフィックAIハードウェア研究センターを設け、物質がもつ潜在的な演算能力である「マテリアル知能」を活用し、「ニューロモルフィックAIハードウェア」を中心に研究を行う。
また同時に、ニューロモルフィックを応用したAIシステムの具現化や、次世代の産業に貢献することを目指している。
今後の展望と課題

ニューロモルフィックコンピューティングはまだ一部が導入されるようになった段階で、これからの動向を注視したい。
また人間の脳を模倣していることから、倫理的な問題を提起されているほか、アメリカ軍の部門の一つである統合人工知能センター(JAIC:Joint Artificial Intelligence Center)でも、ニューロモルフィック技術を応用することが検討されている。軍事利用となれば、それに伴う課題も生じるだろう。
生成AIは、急速に発達・普及したことで法整備が追いついていない所感がある。ニューロモルフィックコンピューティングについても後手にならないよう、生じ得る問題を事前に洗い出し、できる限り事前に解決しておく必要がありそうだ。