中小企業
2025年4月改正予定の「高年齢者雇用安定法」
改正により求められる企業の対応を徹底解説!
掲載日:2025/03/11

労働力人口の不足が叫ばれる昨今、多くの企業にとっては高齢者でも重要な労働力として位置付けられていることだろう。この高年齢者の雇用形態について示している法律が「高年齢者雇用安定法」である。同法律は2025年4月に改正を迎えるため、その内容と企業に求められる対応について解説する。
高年齢者雇用安定法とは
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下、高年齢者雇用安定法)が、2025年4月に改正される。今回の改正では、これまでの60歳以上の従業員に対する雇用制度や雇用継続給付の内容が一部変更されることとなった。この改正に至るまでにも同法律は社会の移り変わりとともに改称や改正が繰り返されてきた。
高齢化で法の趣旨が変遷した70~80年代
1971年に高年齢者雇用安定法の源流である「中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法」が制定された。当時は以下のように、加齢による雇用の不安定を防止する目的として制定された法律であることが読み取れる。

当時は終身雇用かつ55歳を定年とすることが一般的であり、同法律はあくまでも社会の中で定年を迎えた高齢者の再雇用を促進するという印象が強い。
しかし、80年代を境に国内の少子高齢化が進行し始め、労働力不足を補うため高年齢労働者が必要であるとの機運が高まっていく。例えば、1981年に日本弁護士連合会が開いた「人権擁護大会宣言」の資料によると、「高齢者の雇用保障に関する決議」という項において、人権面においても経済合理性の面においても定年を60歳に延長することが望ましいとの旨が提言されている。
実際に1986年に現在の「高年齢者雇用安定法」へ改称された際は、定年年齢を60歳に引き上げることを努力義務とする旨が条文に追加された。また、同時に高年齢労働者の継続雇用、再雇用に関する努力義務もここで初めて登場している。
2025年の改正の土台となった2012年の改正
近年の動きで注目すべきは2012年の法改正だ。この改正では「60歳未満の定年を禁止」「定年を65歳未満に設定する事業主への雇用確保措置の義務化」などが追加された。ここでの雇用確保措置の義務化とは、「定年制の廃止」「65歳までの定年引き上げ」「再雇用や勤務延長などの制度による65歳までの継続雇用制度の導入」などを指す。
ただし2012年の改正は、2000年の年金制度改革で厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢が65歳まで段階的に引き上げられたことによる、その期間の収入の空白期間を埋めることを目的としたものである。そのため、継続雇用制度と同様に「2016年3月31日までは61歳以上」「2019年3月31日までは62歳以上」と段階的に変化する経過措置が取られていた。
2025年4月の法改正の概要
幾度もの改正を経て、2025年の改正では、雇用保険法に基づく高年齢雇用継続給付が縮小される。従来の高年齢雇用継続給付は、高齢者の60~65歳の賃金が60歳到達時の61%以下になった場合、減少額の15%相当額が公的に支給される内容だった。しかし、2025年4月からの改正では、最大給付率が10%に引き下げられる。
また、賃金と給付額の合計が60歳時点での賃金に対して70.15~75%だった場合は給付額が漸減する制度だったが、2025年4月以降はこの基準値が70.4~75%に変更される。

さらに、前述した2012年の改正における「再雇用や勤務延長などの制度による65歳までの継続雇用制度の導入」の経過措置は2025年3月31日に撤廃され、4月1日以降は対象者が65歳以上に固定化されることとなった。
企業の取るべき対応とは
2025年の法改正に際し、企業が第一に取り組むべきは雇用契約の見直しである。高年齢雇用継続給付の最大給付率が10%に引き下げられることで、現行の雇用契約では法改正による収入の減少に対応できず従業員のモチベーション低下につながる可能性がある。賃金による補填に限らず、福利厚生や職場環境の充実などのアプローチも図ることで、意欲のある高年齢者の雇用を維持できる形を目指したい。