DX
DXで進化する教育現場
事例から見る中小企業での活用法とは
掲載日:2025/06/03

GIGAスクール構想や教育DX、EdTechなどを背景に、教育現場でもICT技術の導入が盛んだ。ICT化の現状や活用事例などを参考にDXが進まない中小企業にも生かすことはできないだろうか。教育DXの実例から考えていこう。
教育現場のICT化
教育現場でのDXにはいくつかの側面がある。まずは、児童・生徒へのICT教育である。1人1台のタブレット・PCを保有する環境を実現するGIGAスクール構想や、プログラミング教育などがこれに含まれる。次に、児童・生徒の学習を通じて得たデータを蓄積し、これを生かして個々に最適な学習環境の構築も行われている。教員側もICT機器やソフトウェアの活用により、煩雑な事務仕事の自動化で負担を減らすことも教育現場のDXとして数えられる。
教育現場でのDX、ICT化で使用されている言葉の定義は以下のとおりだ。
GIGAスクール構想
全国の小学校、中学校、高等学校などの公立学校、義務教育段階の国公私立学校などを対象に、1人1台端末や高速大容量の通信ネットワークの整備など、学校ICT環境の整備、活用を行う取り組みを「GIGAスクール構想」と呼ぶ。
同構想の目的は、全ての児童、生徒の可能性を引き出す「個別最適な学び」と「協働的な学び」の実現だ。
教育DX
文部科学省は次の三本柱で教育DXの取り組みを行っている。

EdTech
EdTechは科学技術(Technology)を活用した教育(Education)を意味する造語だ。AIやビッグデータなどの科学技術を用いた教育を指し、ICT技術そのものについて学ぶことを意味する言葉ではない。EdTechには、デジタル教材や学習のためのプラットフォーム、学習管理ツールなどさまざまなツールが利用されている。
教育現場での事例
GIGAスクール構想、教育DX、EdTechはいずれか一つだけの施策で学校教育の変革を行っているものではなく、それぞれの要素が組み合わさって教育現場に影響を及ぼしている。
Chromebook導入事例
ある都内の公立小学校は2016年度から2年間、東京都公立小中学校ICT教育環境整備支援事業の指定校に選定された。その影響でGIGAスクール構想以前から、全国に先駆けてICT化を進めており、2021年には児童、教員に1人1台のChromebook端末を導入し、同時にGoogle Workspaceも採用。ファイル名を付けて保存するという作業に苦戦する児童もいたが、Chromebookは作業内容がクラウドに常時保存されるため、作業ハードルが下がっているのが特長だ。
Google Workspaceのさまざまなアプリケーションを使用した共同編集や共同作業は、授業だけでなく委員会やクラブ活動にも活用でき、Google Meetを他校との交流などにも用いている。
教員の業務改善を実現した事例
校務全般のDXを目的として、Google Classroomを核に連絡帳や学級だよりをクラウド化している。学級だよりをクラウド化したことで、紙媒体と比較して写真を多く掲載できるなど、より細かい情報を児童の保護者に発信できるようになった。連絡帳は、先生の週案簿などと連携し、業務の軽減につなげている。
課題となっていた研修時間の確保、指導者の選定、研修内容の検討などを、クラウドを活用した校内研修にシフトし、校内の先生が教師になることで教員それぞれの強みを生かした研修が実現した。
実際の授業にデジタル端末を導入した事例
小学校の体育の授業でタブレットを活用した事例もある。走り高跳びの指導の際に、手本になる動画を各児童のタブレットに配布して授業を行った。
児童たちは動画を基にグループで話し合い、情報を共有。自分たちの運動の様子をタブレットのカメラで撮影し、グループで動画を見比べたり、向上するための課題、練習方法などを考えたりする機会を設けた。
授業での事例をそのまま企業の業務に導入することは難しいが、クラウドの活用による情報共有や研修などを行う際のヒントとなることはありそうだ。
教育現場の取り組みから見る企業のDXとは

2019年に発表されたGIGAスクール構想の第1期では、1人1台端末と高速ネットワーク環境が整備された。今後は2024年度から始まった第2期にて導入端末の更新を予定している。これにより、個別最適でなおかつ協働的な学びの促進が期待されている。
一方で、教員のICTリテラシーの差により、GIGAスクール構想が生かしきれていない学校も依然として存在している。デジタル環境を整備するだけでなく、ICT技術を用いて教員、生徒の教育の質を向上させていくことが大切だ。
これは、企業のDXでも同様のケースが考えられるだろう。目的がICT化することになってしまうケースが見られるが、DXの本来の目的はビジネスモデルや業務プロセスの変革である。企業ごとに課題やDXの状況は異なるため、DXのゴールとそのための最適な方法、製品とは何かを、教育DXを通して改めて考えていきたい。