組織改革

働く介護者「ビジネスケアラー」を企業はどう支援すべきか?

掲載日:2025/06/24

働く介護者「ビジネスケアラー」を企業はどう支援すべきか?

2024年に内閣府が発表した「高齢社会白書」によると、2020年の国内総人口における高齢化率は約29%であった。2000年時点では約17%となっており、非常に速いペースで高齢化が進んでいることが分かる。高齢化と同時に企業が近い将来直面する課題がビジネスケアラーへの対応だ。その実態と支援策について解説する。

増え続けるビジネスケアラー

仕事をしながら介護に従事する人を「ビジネスケアラー」と呼ぶ。ビジネスケアラーは本人の負担はもちろん、それを雇用する企業にも介護を理由にした離職により、企業の生産性が大きく削がれるリスクがある。

政府は2015年に経済財政政策の目標として「介護離職者ゼロ」を掲げているが、実際はその後も介護離職者やビジネスケアラーは増加傾向だ。2024年に経済産業省が発表した「新しい健康社会の実現」によると、2020年段階で約262万人存在するビジネスケアラーは、2030年に約318万人へ増加するとされている。2030年には、仕事と介護の両立困難や介護離職などによる労働損失額の合計が9兆円を超えると推計している。

企業がビジネスケアラーを支援する方法

企業はビジネスケアラーに対しどのような支援を行えるだろうか。それは、従業員が介護を両立できる新たな働き方の提案だ。

例として、介護休業制度の整備や利用促進、介護サポートに関する社内研修の実施などが挙げられる。もちろん、産業医や人事との連携、社内相談窓口の設置など、負担を抑える企業風土も不可欠となるだろう。

従業員が介護をしながらでも働きやすい企業風土を実現するために必要なのがITソリューションの活用だ。以下で具体例を紹介する。

在宅勤務とセキュリティの担保を両立

ビジネスケアラーの従業員への支援を行う場合、第一に検討したいのが在宅勤務だ。コロナ禍以降、テレワークという働き方は浸透してきたが、ビジネスケアラーへの支援を推し進める場合は長期的な在宅勤務も見据え、セキュリティを強化したITソリューションを導入することが望ましい。

また、導入するITソリューションはどんな従業員にも等しく利用機会があり、かつ柔軟性が高いツールであるべきだ。例として、従業員がオフィスで使用していたシステムなどをクラウドベースのものに切り替えるという選択肢がある。

場所を選ばず使用できるだけでなく、テキストでの連絡やファイルのやりとりなどを一本化できるという点も在宅勤務に適している。VPNを構築しなくても、従業員の自宅と企業の間にセキュアな通信を確保できるという点でも魅力だ。

ビジネスケアラー支援を進める企業の先行事例

ビジネスケアラーへの支援を既に推し進めている企業の事例を二つ紹介する。

介護休暇の制度を拡充して働きやすさを改善

ある映像制作系の企業では、ビジネスケアラーを全社的に支援する施策を打ち出している。

同社はあるプロジェクトの開始に合わせて採用した多くの社員が、近い将来にビジネスケアラーとして働くことを予見していた。そこで社内に専門の窓口を設けて相談を一手に担えるようにしたほか、法定5日の介護休暇を倍の10日に拡充。さらに通常2年で失効する有給休暇を積み立てて介護休暇などに利用できる制度を創設した。

このような取り組みは従業員の不安を解消するのみならず、新卒採用の場でも他企業との差別化ができ、人材確保の面で大きく貢献している。

従業員のビジネスケアラーへの意向を確認する仕組みを導入

とある建設系企業では、従業員がビジネスケアラーの働き方への意向を確認できる専用のシステムを導入し、その内容を分析したレポートを基に対策を進めている。

同システムにより社内の状況を把握した結果、特に管理職側にビジネスケアラーへの理解を促進させる必要があると判断し、eラーニングによる研修を実施。全社的な意識の向上を目指している。

ビジネスケアラー対策は今後不可欠に

ビジネスケアラーへの対応は今後ますます重要になるが、比較的新しい働き方でもあることから、企業による事例も多くないのが現状だ。しかし、これから対応を求められる場面は着実に増えることが見込まれるため、ビジネスケアラー支援に積極的な企業としての、最初の挑戦に踏み出してみてはどうだろうか。