組織改革
辞めたいという人の心を変えるより
会社を変えていった方が絶対に早い
株式会社アルバトロス 代表取締役
退職代行モームリ 代表
谷本慎二氏
掲載日:2025/08/19

いまや業種にかかわらず、人材の確保は中小企業にとって最大かつ喫緊の課題。新たな人材の採用に苦闘する一方で、いかに今いる社員を辞めさせないかが事業の成長を左右するといっても過言ではない。Z世代を中心に利用が急増する退職代行サービスでトップクラスのシェアを誇る株式会社アルバトロスの谷本慎二氏に、離職者の本音と企業がとるべき離職防止戦略について聞いた。
実は昔から存在した退職代行のニーズ
BP:まずお聞きしたいのが、谷本先生が退職代行サービスに注目された経緯です。
谷本 慎二氏(以下、谷本氏):私は大学卒業後、サービス業に勤務しましたが、その労務環境はかなり過酷なものでした。同期が次々に辞め、私自身も何度も辞めようと思いましたが、そのたびに上司の方などから慰留され、退職するのも簡単ではないことを実は私自身が実感していました。こうした中、総務部にいた同僚から聞いたのが退職代行サービスの存在でした。
私自身もそうでしたが、辞めると言いづらいと感じる人は少なくありません。その後、ビジネスの立ち上げに向けて動く中で知り合った年長の方々の中にも「20年前、30年前にこうしたサービスがあったら、私も使っていた」という人が多く、時代を問わず、ニーズとしては昔からあったのではないかと思います。また働き方改革などを通して、企業の労務コンプライアンスは確実に向上していますが、ハラスメントは今も存在します。職場の人間関係に悩む方にとって、退職代行は必要不可欠な存在であると考えています。
BP:一方で経営層やマネージャー層には、退職代行を利用されることに違和感を持つ方もいるようです。
谷本氏:当社スタッフが依頼人の勤務先に連絡した際、高圧的な態度をとられる企業が1割ほど存在します。考え方はいろいろですが、我々外部の人間にそうした態度をとる会社の、従業員に対する姿勢はやはり察するものがあります。代行サービスを利用してでも辞めたいと考えるのは当然ではないでしょうか。退職にあたり、「上司や同僚に感謝の気持ちを直接伝えるべきだ」という意見もあります。しかし勤め先に感謝しているなら、そもそも代行サービスは利用しません。退職に際し、本心を伴わない、形ばかりのやりとりを求めるのは、やはり本題からズレているように思います。
BP:「モームリ」を利用するのはどのような方が多いのですか?
谷本氏:年齢でいえば20代、30代が中心ですが、利用者の年齢層は、下は15歳から上は80代までかなり幅広いです。10代の場合、シフトを次々に入れられてアルバイトが辞められないというのが大部分で、高齢者の場合、人材育成など特別な役割を担ってきた方の相談が目立ちます。業種では1位がサービス業、以下、製造業、医療関連が続きます。母数が反映された順序といえますが、医療関連の依頼者の大部分が看護師で占められるなど、労務環境が過酷であるほど退職代行が利用されやすい傾向があります。

確実に存在するZ世代とのギャップ
BP:定着率の向上において、Z世代と呼ばれる若い世代との認識のズレが指摘されることも少なくありません。モームリ利用者の中核を占める世代になるかと思うのですが、まずお聞きしたいのは、彼らが会社を辞める理由です。
谷本氏:当社は4万人の利用者に対する30~40項目のヒアリング内容をデータとして蓄積していますが、そこから見えてくるのが「2・6・2の法則」です。分析すると、ハラスメントなど明らかに会社側に非があるケースは約2割。同じように明らかに労働者側に問題があると考えられるケースも2割で、残る6割はどちらが悪いとも言えない、ボタンの掛け違えとしか言えないケースで占められています。
掛け違えの内容を具体的に見ていくと、やはり世代間の認識のギャップが目立ちます。その一例が、朝礼の社訓唱和です。私がある大学で講義をした際、学生たちに社訓唱和についてたずねたところ、ほぼ全員が「受け入れられない」という反応を示しました。受け入れられない理由として思い当たるのが、効率性を重視する価値観とのズレです。社訓唱和以外にも、「新入社員のエレベーター利用禁止」「デジタル化できるはずの業務を紙ベースで行う」など、彼らの目に無駄と映るルールや業務手順への反発を強く感じます。リモートワークや在宅勤務を許す労働環境を高く評価するのも、こうした価値観の表れだと思います。
BP:谷本先生ご自身がZ世代とのギャップを感じられることはありますか?
谷本氏:当社の従業員の8割は20代のZ世代です。30代半ばの私であってもギャップを感じることが少なくありません。私もそうでしたが、我々より上の世代は自分自身の体験のほかは、読書体験など限られた情報を通して知識を積み上げ、自分の生き方を考えるしかありませんでした。しかし生まれたときからインターネットがある彼らは、SNSでリアルタイムの情報にアクセスし、さまざまな判断を下すという環境の中で育ってきました。
働き方に対する認識もそれは同じです。私がサラリーマンだった頃、たとえ休日であっても携帯に連絡があれば対応するのが当然と考えていました。しかし、今はそうではありません。休日は業務から解放されることが当たり前のこととして周知されています。その違いは、考える以上に大きいと思います。
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