セキュリティ

地政学的リスクとサイバー攻撃

掲載日:2025/09/16

地政学的リスクとサイバー攻撃

地理的な条件を重視して国際政治を考える「地政学」。その地政学に基づいた政治的、社会的なリスクを「地政学的リスク」という。近年、地政学的なリスクに伴うサイバー攻撃が多発している。どのようなパターンの攻撃があり、実際にどのようなことが発生しているのかを見ていこう。 関連記事:国の基幹インフラをサイバー攻撃から守る「能動的サイバー防御」とは?

地政学と地政学的リスク

地理的な条件をベースとして、軍事や外交、国同士の関係などを分析、考察する学問を地政学という。四方を海に囲まれた日本やイギリスと、国境が全て陸にあるオーストリアやスイスでは、地理的な条件が異なる。この条件の違いは、国の政治や経済、安全保障戦略、外交戦略に大きな影響を及ぼす。地政学は、地理的な条件に注目して歴史や現在の状況を分析する。

地政学的リスクは、地理的な位置関係で発生する、その地域の経済や紛争、テロなどによって経済の停滞などを招くリスクのことを指す。例として、ロシア・ウクライナ戦争、中東情勢、中台関係などが挙げられるだろう。

地政学的リスクとサイバーセキュリティ

サイバー攻撃は企業や個人にとどまらず、国家や国際社会にまで波及するリスクを持っている。特に地政学的リスクと絡む場合、その影響は経済活動や社会基盤に大きな打撃を与えかねない。具体的には以下のような攻撃の種類がある。

実際の被害事例

2022年2月にロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、地政学リスクによるサイバー攻撃が注目されている。ウクライナは、DDoS攻撃、マルウェア、フィッシング攻撃、フェイク情報、サイバーフィジカルシステムへの攻撃などを受けてきた。対立する国に対して社会的な混乱を引き起こすことを目的とし、嫌がらせや報復を行ったり、自国産業の競争優位性を確保するために相手国の機密情報を窃取したりといった攻撃を行う。

サイバー脅威は、物理的な紛争と違い、地理的な境界が存在しないため、標的とされた国の周辺にも被害が及ぶことがある。実際、2022年以降、ロシアからヨーロッパのシステムへのサイバー攻撃は大幅に増加しているという。

2024年にドイツの元内相フェーザーが発表した内容によると、当時の首相ショルツが属するSPD(ドイツ社会民主党)や、物流、防衛、航空宇宙、ITサービスなど複数の企業がサイバー攻撃を受けた。その攻撃者はロシア軍の情報機関に関係するロシアのハッカー集団「APT28」であるとしている。

ロシアからとみられる攻撃は、ウクライナ近辺にとどまらず、日本もターゲットとされることがある。2024年10月の報道によると、ロシアを支持するハッカー集団が、SNS上で日本の自治体、交通機関、民間企業などのWebサイトにサイバー攻撃を行ったと主張していたことがある。実際に、その後自民党のサイトや山梨県のサイトなどがつながりにくい状態となっていた。

その他、ハッキンググループ「アノニマス」のような非国家主体が関与したインシデントも確認されており、中国をはじめとするさまざまな地域から脅威が拡散されている事例もある。

効果的な対策とは

地政学的リスクに関しては、自国だけで解決できる問題ではないことも多く、国際協力が必要になる。

自社・自組織が巻き込まれないためには、ゼロトラストをはじめとしたネットワークのセキュリティ、フェイク情報にだまされないためのリテラシー教育、さらには地政学的リスクに関する最新の情報収集などが大切となるだろう。