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「令和7年版 情報通信白書」に見るICT市場の動向
掲載日:2025/09/30

令和7年版の「情報通信白書」が7月にリリースされた。AIの進展や世界、日本におけるICT市場などを最新の情報白書から見ていこう。併せて、ガートナーが発表したトレンドを事例と共に紹介する。
日本国内・世界のICT産業動向
本稿では、「令和7年版 情報通信白書」に従って、「ICT」の定義をPC、スマートフォンなどの機器、ネットワーク、クラウド・データセンター、動画・音楽配信のコンテンツサービス、セキュリティ、AIなどとする。
日本国内のICTの名目GDPは、2023年度時点で、57.4兆円となった。これは前年の55.5兆円に比較して3.5%増である。

部門別に見ると、情報サービス業とインターネット附随サービス業が増加傾向、その他はほぼ横ばいとなっている。21世紀に入ってからは、2000年の62.1兆円をピークに2012年まで下降をたどり、2013年から上昇を続けている状態である。
この名目にはPC、携帯電話、半導体、液晶パネルなどが含まれ、2001年がブロードバンド元年、3Gサービスが始まった年であることから、2000年頃は情報インフラの整備が一気に進んだとみることができるだろう。
また、世界のICT市場規模(支出額)に目を向けると、近年は増加傾向で推移している。2024年には前年比7.7%増の5.02兆ドル、2025年には前年比8.3%増の5.44兆ドルへの増加が予測されている。

情報関係の投資額は、日本はほぼ横ばいの緩やかな増加にとどまっているのに対して、アメリカは増加を続け、その差は徐々に開いている。そのほか、ICT関連の研究者数においては、主要国で増加傾向だが、日本では近年減少傾向にある。この状況から、官民一体となって、日本のICTを再度盛り上げていく必要があるといえる。
ICTトレンドのキーであるAI
「令和7年版 情報通信白書」では、ICTトレンドのほかに、AIの動向についてもページを割いている。
最近のAI技術開発で大きな潮流になっているものの一つが、生成AIであることは自明のことだろう。その技術のメインは大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)で、パラメーター数は激増している。OpenAIのGPT-2のパラメーター数は15億、GPT-3では約120倍の1,750億といった具合だ。
世界で爆発的に進展している中、日本のAI開発・事業展開は、世界をリードしているアメリカ、中国などと比べて高く評価されているとは言えない。しかしながら、日本では比較的小規模なものが多い傾向ながら、高性能なモデルの開発が進んでいる。
ガートナーの発表から見るトレンド
ガートナー社が2025年8月に発表した「2025年の戦略的テクノロジーのトップ・トレンド」も見ていこう。
ここでは、「AIの最重要課題とリスク」「コンピューティングのニュー・フロンティア」「人間とマシンの相乗効果」が挙げられている。
AIについては、まずエージェント型AIが取り上げられている。目標に向けて自律的に意思決定を行って行動を起こすソフトウェアやプログラムのことを指すが、2028年までに日常業務の15%の意思決定がエージェント型AIによって行われるようになるとガートナーは予測する。似たものにAIエージェントがあるが、こちらは個別業務のタスクを自律的に実行するものだ。エージェント型AIはもっと大きな範囲を行うものとなる。
しかし、依然としてAIにはネガティブな側面も存在する。AIシステムによるプライバシー侵害や偽情報への対策も必要となってきている。
コンピューティングでは、量子コンピューティングの実現に伴うポスト量子暗号、エネルギー効率の高いコンピューティングなどが取り上げられる。ポスト量子暗号(PQC)は、量子コンピューターが引き起こす脅威から保護するために設計される暗号化方式のことを指す。
人間とマシンとの相乗効果としては、現実世界にデジタルコンテンツをひも付けする「空間コンピューティング」、複数のタスクを実行する「多機能型スマート・ロボット」、人間の神経系とコンピューターの融合などが取り上げられる。
最新ICT技術の事例
上記、ガートナー社のトップ・トレンドから、国内外での事例をいくつか紹介する。
医療での空間コンピューティング
帝京大学では、患者の臓器の診断画像を3D化し、VRゴーグルで見ながら手術を進める取り組みが行われている。臓器の裏側や欠陥損傷を事前に回避することができるという。
イギリスでは、外科助手がVRゴーグルを用いて手術室の無菌室内から手術の準備や手順のガイドをタッチフリーで行っている。患者と同一の室内に入る人数を最低限に減らして、よりクリーンな手術室を実現できる。
ポスト量子暗号
近未来の技術のように感じるが、身近なところで既に実装されている。Google Chromeには、Chrome 116から現行暗号とPQCでハイブリット鍵交換が採用されている。
Zoomも、2024年5月から導入したとしている。
また、ヒューレット・パッカード社は、世界初のPCファームウェア保護にPQCを導入したビジネス用PCを2024年に発表した。
農業向け自律型スマート・ロボット
高齢化が深刻な農業向けに、自律多機能型ロボットが開発されている。カメラとセンサーで設定した人に自動追従し、作業をサポート。また、軽トラにも自ら乗車し、重い農作物などを自動で積載する。アタッチメントを切り替えることで、薬剤散布なども自律的に行う。
ICTの進化が描く未来像

AIを中心に進化を続けるICTは、産業や生活を根本から変革し、持続可能な社会の実現に向けて重要な役割を果たしていくだろう。