IoT・AI
生成AIに新たな風「SLM(小規模言語モデル)」とは?
LLMとの違いや導入メリットを解説
掲載日:2025/10/21

ChatGPTを始めとする、テキスト生成を行う生成AIには主にLLM(大規模言語モデル)が搭載されている。しかし、最近はLLMと比べて低コストかつ特定のタスク処理に高いパフォーマンスを発揮する「SLM(小規模言語モデル)」に注目が集まっている。本記事ではSLMについて、概要や導入メリット、活用例などを解説する。
SLM(小規模言語モデル)とは
「SLM(小規模言語モデル)」とは、LLM(大規模言語モデル)と比べて少ないパラメーターで構成される言語モデルのことである。一般的にLLMが持つパラメーターの数は数百億~数兆だが、SLMは数億~数十億とされ、LLMよりも小型の言語モデルとなっている。
パラメーター数が多ければ多い言語モデルほど、より多くの情報を記憶し、より複雑な処理も可能になる。では、パラメーター数の少ないSLMは、LLMと比べて性能に劣ったモデルかというと、それは違う。
例えると、パラメーター数が多いLLMは広範な領域をそつなくこなす「何でも屋」であるのに対し、特定分野でのファインチューニング(微調整)が簡単なSLMは特定のタスクで高い精度を出す「専門家」だ。SLMとLLMは「用途」が異なるのである。
こうした特性から、SLMとLLMの大まかな使い分けについて、SLMを金融や医療などの特定領域やより正確性が求められる特定のタスクに、LLMをその他のタスクに用いることも考えられるだろう。
SLMが注目を集めている背景
SLMが注目される背景の一つに、コスト面でのメリットが挙げられる。SLMは、LLMと比べて必要な学習データおよび計算リソースが少ない。そのため、開発に必要なGPUの数やエネルギー消費量、設備投資額などを抑えられるのだ。
またプライバシーやセキュリティの面でもメリットがある。SLMはローカル環境での運用が可能であり、端末内で全ての処理が完了する。このため、入力データが外部に出ることがなく、情報漏えいリスクを抑えることができるのだ。
SLMを導入するメリット

ユーザー視点でのSLMを導入するメリットの一つが、ハルシネーションのリスクを抑えられることだ。ハルシネーションとは、生成AIが事実とは異なる情報を出力してしまう現象である。SLMでは特定の分野に絞って学習を行うため、学習過程で不要かつ余計な情報が介在するリスクが低く、ハルシネーションが発生しづらい。
ハルシネーションに対するリテラシーの向上は、ビジネスで生成AIを活用するうえで極めて重要である。生成AIが出力した情報をそのまま利用していると、業務の正確性やクライアントとの信頼関係などが毀損(きそん)してしまう可能性があるためだ。
特に正確性が求められる業務においては始めからハルシネーションが発生するリスクが低いSLMの活用が効果的なのである。
SLMの活用例
SLMはその特性上、より正確性や機密性が求められる特定分野での活用に適している。例えば法律分野では契約書のレビューや法律文書の解析など、医療分野では症状の診断支援や治療の提案など、金融分野では財務諸表の分析などにSLMは活用し得るだろう。
そのほかにも、パラメーター数が少なくデータ処理時間が早いため、チャットボットによる問い合わせ対応や製造分野におけるリアルタイムの異常検知などのタスクともSLMは相性が良い。
SLMの展望
2025年9月現在、SLMはマイクロソフト社やアップル社などのビッグテックも開発・提供を進めている。今後、LLMと同じくらい頻繁に聞くワードになるかもしれない。
一方、特定領域に特化するSLMは、パラメーター数が多く幅広いタスクに対応するLLMに汎用性の面では敵わない。またアウトプットの質を確保するためには、高品質なデータを一定数用意する必要もある。
今後はそれぞれメリット・デメリットがあるSLMとLLMとの使い分けが進むことで、高効率なAI活用を実現する企業が増える可能性がある。ベンダーとしてSLMの最新動向を押さえておくことで、クライアントのAI活用に寄与できる可能性が高まるだろう。