IoT・AI
新時代ではAIが上司を務める?
「AI上司」とは
掲載日:2025/12/02

AIが上長の役割を担う「AI上司」サービスがリリースされている。このサービスは負担が大きい上長の業務量削減を目指すと共に、部下にとっても気軽に相談ができる機会の創出が期待されている。各種サービスで機能は異なるが、会議や日常業務、研修、上長の言動などから学習したAIに意見を求めるなどさまざまなことができるようになっている。
AI上司は2010年代に登場
2019年12月2日の日本経済新聞に「あなたの活躍、8割的中 AI上司は知っている」という記事が掲載された。
成績優秀で人当たりも良く、問題がないかのように見えていた従業員に対し、アルゴリズムを用いて「行動力」「責任感」「安定性」など12項目の評価を行ったところ、「自信」の数値が極端に低く、本人に尋ねたところ実は悩みを抱えていたという。リアルな上司が気づかなかったことをAIは表情などから読み取ったというのだ。
同記事ではテクノロジーで従業員などの感情面を支援する「トランステック」に注目が集まっていると記載。それから6年が経った現在、テクノロジーを活用した「AI上司」のサービスが徐々に広がりを見せている。
グループCEOと気軽に相談できる『AI-CEO』
SMBCグループと三井住友銀行は、『AI-CEO』を開発し、2025年8月に銀行内での展開を開始した。グループCEOの中島達氏を模したAI-CEOに気軽に相談できる体験を通じて、日常業務にAI活用を浸透させることを目的としている。
ベースとなっているAI技術は、OpenAIの『GPT-4o』。RAGには中島氏の過去の発言や考え方、周囲からの印象などを学習したデータが用意され、AIチャットボットに入力すると中島氏らしい回答が生成される。
今後、職員のフィードバックからデータや機能を追加し、AIの自律的な成長の仕組みを設計する。また、このシステムのノウハウから銀行の顧客へのサービス提供や、AI上司の開発も進める見込みだ。
AIを活用したロールプレイングソリューション
2025年9月に、三菱UFJ銀行はAIロールプレイングソリューション『iRolePlay』を導入。このシステムは、SCSK株式会社と株式会社インタラクティブソリューションズが開発したもの。従来の対面形式の研修に代え、いつでもどこでもAIと対話しながらトレーニングする研修形式を可能にした。金融商品に関する基礎知識の習得からアウトプットまでを1人で完結でき、経験の浅い従業員や中途採用者などの早期戦力化を目指す。
ロールプレイング研修は人材育成に役立っていたが、指導担当者と従業員双方の時間の捻出が課題となっていた。いつでもどこでも受けられるAI研修はこの課題を解決する。
また、三菱UFJ銀行は、2025年秋から、普段直接話す機会が少ない経営層からアドバイスを受けられるほか、実務に近いAI上司にも相談できるシステムを導入し、業務の効率化を図ると発表している。
本部長をAIで完全再現
法人向け事業の開発を担う部署の本部長、那谷雅敏執行役員常務をAIで再現し、AIエージェント『A-BOSS(本部長AI)』を開発。当初は、会議や提案書へのフィードバックといった本部長業務をAIで代替し、業務負担を軽減する目的だったが、那谷氏の発想を採り入れ、個人に依存しない営業体制の構築を目指すことになった。学習データを蓄積するために、若手社員が那谷氏に3週間同行して発言や振る舞いなどを記録し、インタビューも行ったという。
A-BOSSは社内で一定の評価を集め、2025年7月から外販サービスも行っている。
会議支援ツール『会議支援エージェントシステム』
NTTドコモは複数のAIエージェントが会議に参加して、リアルタイムに情報収集・提案する『会議支援エージェントシステム』を開発した。上司や専門分野の従業員などの発言傾向を「代理エージェント」にインプットすることで、AIエージェントが該当する上司の視点での助言を行う。上司の事前チェックや専門家に相談する件数が減り、業務効率の向上につながるとしている。
営業に特化したAI上司『Saltr(サルトル)』
株式会社サルエドが開発したAI上司「Saltr(サルトル)」は営業に特化したAI上司。 日本で唯一の営業辞書である和田創編著『営辞峰』をAIに格納。
Webでの商談中にリアルタイムで会話を分析し、次の瞬間に営業がとるべき行動を、AI上司が指示。必要に応じて、商談進展や成立に至るためのコツやヒントも提示する。
商談後には、サマリーの解析を踏まえ、面談時の良かった点や改善点を示す。上司が同行、同席を行えない場合も、日次報告として用いることができる。
「AI上司」は上司、部下共に負担が軽減

現代における上長の立場は、限られた時間の中で成果を出さなくてはならないうえにプレイングマネジャーとして、部下の育成も担うケースが少なくない。負担を大幅に軽減するツールとして、AI上司は非常に効果的だ。また、部下も日報などの報告の必要性がなくなり、その分時間を有効利用できる。リアルなCEOや本部長と会話することはめったになくとも、AI上司となら気軽に話せるというメリットもある。本記事で挙げたように新しいAI上司システムが次々と登場していることからもその需要の多さがうかがえる。今後の動向を追っていきたい。