IT業界ホットニュース
配信日:2010-11-25
情報サービス業界の上半期決算 伸び悩む主要SIer
主要SIerの業績が伸び悩んでいる。自動車や電機など大手ユーザー企業の業績回復が鮮明になるなか、情報サービス業界だけが取り残されている格好だ。景気変動の影響がワンテンポ遅れる“遅効性”を指摘する声もあるが、同時に産業全体の“構造問題”を危惧する見方も根強い。もし後者だとするならば、情報サービス業界の急回復は期待できず、縮小の深い谷間へと滑落してしまう。危機感を抱く一部の有力SIerは抜本的な構造改革へと乗り出している。(安藤章司)
●ITサービスに“黄信号”
リーマン・ショックの影響を直接的に受けた2009年度(10年3月期)が底ではなかったのか──。主要SIerの幹部は今年度上半期(10年4~9月期)の業績の伸びの鈍さに驚きを隠さない。
最大手のNTTデータは、M&Aによる連結子会社拡大が貢献して、辛うじて上期連結売上高は前年同期比0.2%増だったものの、営業利益は同24.1%も落ちた。NTTデータの山下徹社長は、「事業環境は予想以上に厳しい」と、表情をこわばらせる。ITホールディングス(ITHD)は、準大手SIerのソランが連結子会社に加わったことが追い風となり、上期売上高同4.8%伸びたが、営業利益は同19.6%も落ちた。ITHDの岡本晋社長は「4月以降、商談は活発化してきたものの、なかなか受注につながらずに苦しい」と、心情を吐露する。
JBCCホールディングス(JBCC-HD)の上期は増収増益を達成し、通期でも3期ぶりの増収増益を目指す。ただし、内容をみるとパソコンやサーバーを中心とした「製品販売」が上期同12.8%伸びたが、SIサービスはマイナス成長。JBCC-HDの山田・司社長は「もしハード製品が売れていなかったら、増収は厳しかった」と、肝を冷やす。伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)も、製品販売は伸びたが、ソフト開発とサービスがともに減った。
経済危機以降、買い控えてきたハードウェアの耐用年数が限界に来ていることが製品販売の増加につながるが、SIerにとっては諸手を挙げては喜べない。ハード販売は利幅が小さいうえに、国内の成熟市場においては需要が一巡すると必ず落ちる。もはや成長期は終わったのだ。収益力の高いソフト・サービスを伸ばすことが生き残るカギ。そもそもSIer自らサーバー統合やクラウドを推進していることから、ハード販売は自ずと縮小せざる得ない。
その肝心のソフトサービスでも“事件”が起きた。野村総合研究所(NRI)が開発した証券業向け共同利用型基幹業務システム「STAR-Ⅳ(スターフォー)」を、野村證券が採用すると発表。早ければ2013年にも本格利用を始める。このシステムは国内証券会社の口座数ベースで3割弱のシェアを誇る主力サービスで、これに野村證券が加われば一気にシェア過半数となり「証券業向け基幹業務サービスでデファクトスタンダードになる」(NRIの嶋本正社長)と意気込む。
だが、これは一方で野村證券がこれまで使ってきた独自システムは使われなくなることを意味しており、NRIの上期売上高構成比で23.8%を占める野村ホールディングス向けの受託ソフト開発は大幅に落ち込む懸念が持ち上がっている。野村證券の基幹業務システムを巡っては09年3月、ソフト資産などをNRIが約400億円で買い取り、サービスとして提供していた。今回の動きは、クラウド型ともいえる共同利用へとさらに一歩踏み込んだものだ。
調査会社や大手SIerの市場予測をみると、2011年以降、わずかながらではあるが成長が見込める。だが、予断は許さない。「ハード由来の増収を除いたトップラインの伸びは期待できない」と、厳しい見方をする大手SIer幹部もいる。ユーザー企業の業績回復と、情報サービス業界の売り上げとは、遅効性の相関関係は認められるものの、利益面では相反するといってもいい。ハード販売や受託ソフト開発で潤った時代はすでに過去のものとなり、クラウドを中心とするサービス化、海外進出、M&Aによる規模の追求といった抜本的な改革を成し遂げるSIerだけが勝ち残れる。
●表層深層
利益を得る原則は二つ。売り上げを伸ばし、コストを下げることだ。クラウドの流れと相まって、サービス化や共同利用化によるコスト削減は、ユーザー企業のみならずSIerにとってもプラスになる。高い収益率を誇ってきたNRIは、受託ソフト開発を減らしてでも、メインユーザーのサービス化・共同利用化へ大胆に舵を切った。NTTデータも主力顧客の一つである地銀のシステム共同利用化を積極的に推進。クラウドでまとまったシェアを握り、規模のメリットで収益力を高める戦略ともいえる。
ただ、利益の得るためには、もう一つ方法があるのも事実。M&Aや再編、海外進出だ。新たな投資負担によって利益率は下がるかもしれないが、規模のメリットによって利益の絶対額は増やす。この10月、日立系有力SIerの再編によって日立ソリューションズが発足。ITHDの主要事業会社TISとソラン、ユーフィットは11年4月1日をめどに合併し、新生TISを立ち上げる。NTTデータは年商約六五〇億円の米有力SIerを年内をめどにグループに迎え入れるなど、再編やM&Aの動きが相次ぐ。
利益を得られれば、新たなクラウド商材の開発投資や海外進出、M&Aに資金をより増やせる。構造改革の加速はそのまま競争優位性につながる。ゆめゆめハード販売による増収で気を許してはならない。もし、しくじれば、熟れた国内市場で埋没してしまい、縮小均衡へと滑落する。主要SIerの2010年度上期業績は情報サービス業界に灯った黄信号と捉えるべきだろう。(安藤章司)
■関連記事
いざ海外へ 動き出したメーカー系列SIerの4強
http://biz.bcnranking.jp/article/explanation/1011/101111_124481.html
日中情報サービス産業懇談会 データでみる「中国の実力」
http://biz.bcnranking.jp/article/explanation/1009/100916_123949.html
情報サービス業界の市場動向、“二番底”のリスク高まる
http://biz.bcnranking.jp/article/news/0912/091228_121387.html
主要SIerの中間決算を俯瞰する 上げ潮基調、鮮明に
http://biz.bcnranking.jp/article/explanation/0711/071112_109122.html