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配信日:2011-03-03
IPv6で商機をつかむ! 企業の隠れたニーズを掘り起こせ
2月1日、米IANA(Internet Assigned Numbers Authority)が在庫切れを発表したIPv4アドレス。日本でIPアドレスを配布している日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)は、日本での在庫枯渇を、2011年の夏頃と予測している。そんな状況下で、インターネットサービス事業者がIPアドレスの新バージョンIPv6への移行を推進しているが、一般企業、とくに中小企業の対応が遅れている。それだけに、SIer/NIerなどのITベンダーにとっては、企業のIPv6対応の遅れがビジネスにつながる可能性がある。
●日本企業の海外進出が移行に拍車
中国やインドなど、ここ数年の新興国でのインターネット利用の急増によって、2006年頃からIPv4の在庫切れ予測が急速に早まり、いわゆる「IPv4枯渇問題」が注目を集めてきた。枯渇の対策としては、IPv4の回収や再利用、節約など、いくつかのシナリオが考えられているが、長期的に最も有効となるのが、無限に近いリソースをもつIPアドレスの新バージョンであるIPv6への移行だ。IPv4アドレスの枯渇が迫っている事態を受け、国内最大手の通信事業者である日本電信電話(NTT)が2011年4月に次世代ネットワーク(NGN)でIPv6接続のサービス開始を予定するなど、インターネット・サービス・プロバイダ(ISP)各社が急ピッチでIPv6対応の取り組みを推進している。
ISPは事業維持のためにIPv6への移行を余儀なくされているが、一般企業や官庁・自治体はIPv4のアドレスの割振りが終了しても、すぐに多大な影響が及ぶわけではないといわれてきた。企業などは、新たにIPv4アドレスを必要とするケースが少ないのがその主な理由だ。総務省とテレコム、インターネット関連団体による「IPv4アドレス枯渇対応タスクフォース」の代表代理を務める荒野高志氏(=ITホールディングス執行役員事業推進本部本部長)は、「企業はIPv6への移行に関してまだ認識が低く、とくに中小企業では対応を進めているところがほとんどない状況。やっと、これから対応を検討する段階だ」と企業の現状を語る。
IPv4アドレス枯渇対応タスクフォースは、企業に向けて提案しているアクションプランで、IPv4アドレス枯渇がすぐに大きな影響を与えることはないとしているものの、企業にとってのIPv6対応・利用のメリットを強く訴えている。例えばこれから増加するIPv6ユーザーからの自社サーバーへのアクセスを可能にするために、企業の公開サーバーのIPv6/IPv4デュアル化が必要となるといったことを企業にアピールすることによって、タスクフォースはSIerやNIerなどITベンダーにとっての新たなビジネスづくりに取り組んでいる。
タスクフォースがIPv6のPR活動を積極的に展開する背景には、SIerやNIerなどITベンダーは、企業でIPv6移行の必要性に関する認識が低いために、これまでIPv6を大きなビジネスとしてみておらず、IPv6を巡る事業を積極的に展開してこなかったという事情がある。大手企業を相手に社内ネットワーク機器をIPv6対応モデルに置き換えることに取り組んでいるNIerもなくはないが、IPv6を商売につなぐITベンダーの目立つ動きはまだみえていない。
しかし、ここにきて日本企業の海外進出の加速化や、パソコンと同様にIPアドレスをもつスマートフォンなど新型端末の法人利用の急増などが、企業のIPv6移行に拍車をかけつつある。ITベンダーはそれらのトレンドに応じて、IPv6移行に関する企業の隠れたニーズを掘り起こすことがポイントになりそうだ。例えば、日本企業の進出が進んでいる中国では拠点新設時にIPv4アドレスの調達ができないので、IPv6アドレスの利用が必要となる。ITホールディングスの荒野執行役員は、「海外進出を急いでいるある大手企業のIPv6対応グローバルネットワーク構築のコンサルティングを受託している。IPv6は当社にとってそれなりのビジネスになり始めている」と、一つの事業になり得るモデルを語る。
業界の草分けとして、1月にIPv4/IPv6相互通信サービスを開始した大塚商会は、「今年に入って、IPv6への移行を巡るビジネスが事業として成り立つ見込みが立ってきた」(マーケティング本部ICTソリューション推進部ゲートウェイプロモーション課の矮松浩課長)として、同社が主要クライアントとしてもっている約20万社をターゲットに導入案件の獲得に力を入れている。矮松課長は「IPv6サービスは、単独商材としてどれくらい利益をもたらすかはまだ読めないが、ネットワーク事業全体の拡大の接着剤にしていく」という考えだ。
●表層深層
今年1月、ようやく重い腰を上げてIPv6/IPv4相互通信サービスを開始した大塚商会だが、そこまでの道程はIPv6に対するITベンダーの消極的な姿勢を象徴するものだった。「街の電気屋さん」をモットーに掲げている同社の大塚裕司社長は、これまで社員に対して「IPv6への移行はビジネスチャンス」と数回にわたってメッセージを送ってきた。しかし、「1年前までは、社内の反応は鈍かった」(ゲートウェイプロモーション課の矮松浩課長)そうだ。
1年前までの大塚商会と同様、今もまだIPv6を巡っては「何か商売ができそうだ」と思いながら、なかなか具体的な動きをみせていないSIer/NIerが数多くいる。しかし、一度事業化に着手してみると、さまざまなビジネスチャンスがみえてくるというのが、大塚商会の矮松課長が抱いた印象だ。矮松課長は、「売り上げ云々はどうなるかはまだ分からないが、このタイミングで、このソリューションを提供したのは正解だったと思う」と話した。
2011年は、日本企業の海外進出元年ともいわれている。海外に拠点を設立することによって、グローバルで統一したネットワークの構築が課題となる。また、スマートフォンの法人利用によって、社内ネットワークに対する需要も高まってくる。一見、IPv6と直接関係がなさそうだが、背景では緊密に結びついている。
IPv6移行の市場が開拓されていない今こそが、SIer/NIerなどのITベンダーが動き出す好機だといえる。(ゼンフ ミシャ)
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