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配信日:2011-06-02

富士通とNEC 注力分野は似るものの、業績に差

 富士通(山本正已社長)と、NEC(遠藤信博社長)の2010年度(11年3月期)連結業績が発表された。ユーザー企業のIT投資は09年度に比べて回復したが、東日本大震災の影響で思わぬ打撃を食らい、両社ともに減収。その一方で、構造改革の成果が出て営業利益が増加したことが共通している。クラウドを中心としたITサービス事業と、海外市場でのビジネスを伸ばすという姿勢も同じ。だが、利益捻出が難しい事業では、両社の戦略には違いがあった。国産コンピュータメーカーの両雄の業績を、共通点と相違点、そしてコンピュータとITサービスを中心にさまざまな角度から検証した。(木村剛士)

●両社ともにクラウドと海外に照準

 両社の共通点は、クラウドと海外ビジネスに注力分野を据えていることにある。富士通の山本社長は2010年7月の経営方針説明会で「クラウドに1000億円を投資する」と表明しており、NECの遠藤社長も5月に開いた決算説明会で、投資金額こそ示さなかったものの「クラウドには従来以上に力を注ぐ」と強調している。クラウドを構成するためのプロダクトを販売するとともに、自社でクラウドを構築してサービスを提供するというクラウドベンダーとしても事業展開する姿勢は同じだ。

 各セグメントのうち、クラウドに関係が深い、コンピュータ部門とSI・ITサービス部門のエリアの前年度比成長率をみると──。各事業セグメントの内容や売上高の規模に違いがあって単純比較はできないが、富士通は、ソリューション・SIとインフラサービスなどの「サービス」部門は、売上高で4.8%減、営業利益で8.0%減。片やNECの「ITサービス」は売上高で7.2%減、営業利益では59.8%減。見込んでいたユーザー企業のIT投資の復活が、予測した水準まで伸びなかったことと、東日本大震災の影響、NECでいえば不採算案件の発生などが響き、利益を引き下げる要因になった。

 一方、サーバーやストレージ機器、法人向けソフトウェアなどの事業部門ではどうか。富士通の「システムプラットフォーム部門」は売上高で1.3%増、営業利益で75.7%増で、NECのプラットフォーム部門は売上高で0.6%増、営業利益は前年度の赤字から脱した。09年度はリーマン・ショックの影響で大きく落ち込んだ反動で、10年度はその投資が復活したことが、両社ともに寄与している。これらのセグメントでの商品ラインアップや販売戦略には違いはなく、クラウド環境を意識したハードとソフト、そしてITサービスを用意している点にも変わりはない。

 そして、もう一つの共通点である海外事業。これについては伸ばす方針は同じで、国内に比べてボリュームが小さいプロダクト販売とクラウドを伸長させるという考えだが、その規模に大きな違いがある。全売上高に占める海外市場の比率が、富士通の34.3%に対し、NECは15.4%。富士通は、英国を中心に欧州市場でのITサービス事業やサーバーの販売事業が伸びていることで、海外売上高比率は35%前後をキープし続けている。NECはネットワーク事業は強いものの、ハードやソフトウェア販売での実績が少ない。その差が出た。

 両社の戦略の違いが鮮明に現れているのが、利益捻出が容易ではない事業部門だ。NECは、昨年度に半導体事業を分離して非連結化したことが、売り上げを大きく下げた要因となっている。低迷する半導体事業を単独展開するのではなく、他社と共同展開することで、業績回復を図る考えだ。NECは今年度には約900億円の売上高があったパソコン事業も、他社との協業の道を選び、2011年7月1日にレノボとの共同出資会社設立を予定している。新たに設立されるパソコン専業会社は非連結になるわけだ。長期的にみて自社単独よりも他社との協業のほうが適していると判断した領域は、資本提携まで踏み込んで積極的に協業するのが今のNECだ。一方、富士通は利益捻出が難しい領域でも、一気通貫で事業基盤をもつ強みを重視し、コアな事業は単独展開にこだわる。両社のこの経営戦略の違いが、昨年度は色濃く出た。それが業績に直結し、売上高で1兆4129億8100万円の差という大きな開きを生んだ。

 2010年の国内IT産業規模は、前年比2.3%増の12兆5420億円(IDC Japan)。リーマン・ショックの影響を受けた09年と比較すればプラス成長に転じたが、11年は「東日本大震災の影響で09年時に戻る、またはそれよりも下回る」(同)可能性が出てきた。富士通は、今年度の見通しについて「不確定要素がまだ多い。合理的な業績予想の算定が難しい」(山本社長)とし、今年度通期見通しを発表していない。NECは増収増益計画を公表したが、その実現性について、決算会見の場では遠藤社長に厳しい質問が飛んだ。震災の影響はいまだ読めず、先行きが不透明ではあることは間違いないだろう。

 両社の国内ビッグユーザーが、他のITベンダーに乗り換えるケースは稀で、国内超大手と大手企業向けビジネスは堅い。そうなれば、国内では中堅・中小企業(SMB)、そして、ポテンシャルがある海外市場でのビジネスがカギを握る。この領域での成功の可否が、今後の両社の業績の差に反映されるはずだ。

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